敗着─交錯─ 23 - 24
(23)
一度だけ、父の留守に家にやって来た緒方を思いきり問い詰めたことがあった。
だけど、
「オレと進藤は一度きりで終わった」
の一点張りで後はいつものように軽く受け流されてしまった。
何か信用することが出来なかった。
普段は適当な生返事をして言い包めてしまう彼が、きちんと返事をすること自体がおかしかった。
(進藤…なぜだ…)
自分は進藤に好かれている。
例え男女間に存在する恋愛感情とは違っても、ある種の好意は持たれているという自信はあった。
それは一夜限りの関係ではあったが、肌を通して伝わってきた、と確信していた。
その思いが余計にアキラを苛立たせた。
(和谷…)
”同期の友達”という存在が浮かび上がった。
進藤の家を訪ねる度に、そこに泊まっていると言われる。そしてそれは嘘ではなく、本当に家にはいないようだった。
おかしい。
あまりにも頻繁過ぎる。
進藤の同期には越智と、その「和谷」という人物がいる。
―――まさか、
つり革を握る手に力が入った。
自分の性癖や、進藤に抱く感情が他の人間にもあるとはすぐには思いつかなかった。
だがその自分も、最初は緒方に導かれ、開かれた。
いても立ってもいられずに、忌々しげに爪を噛んだ。
森下門下か――。
(24)
「8520円になります、」
「釣はいい…」
タクシーから降りると、上を見上げた。
自分の部屋に明かりがついているのが見える。
(久しぶりだな…部屋に電気がついているのは…)
なんとなく、足取りが軽かった。
今日、棋院で偶然に進藤に出くわし、この間の罪滅ぼしの意味も含めてキーホルダーごと部屋の鍵を渡しておいたのだ。
「今日はエライさん連中と飲みに行く。帰りは遅くなるから…先に寝てていいぞ」
人気のない場所へ促し、キーホルダーを渡して説明する。
「飲みにいくの?」
鍵の一つ一つを触りながら答えた。
人が来ないかを気にしつつ続ける。
「ああ、懇親会だ。多分…遅くなる。酒が入るから車は使わない。それ、持っていっていいぞ」
「ふーん…」
車のキーを物珍しそうにいじっている進藤を残して、足早に立ち去った。
部屋の前に立つと、念のため呼び鈴を押してからノブを回した。
鍵はかかっていなかった。
もつれかかった足で玄関に入り、ドサリと腰を下ろすとぐったりと壁に寄りかかる。
「おっせーよーっ!」
足音をたてて、ジャージ姿の進藤がドスドスと歩いてきた。
部屋からはバラエティー番組であろうテレビの音が漏れている。
「ああ…今帰った…」
丁度いい具合に酔って気分が良かった。
「ったく…。酒くせーしタバコくせーし、オレ、もう寝るからな!」
横にぺたんと座って膨れている顔をまじまじと見つめると、頭をくしゃっと撫でた。
少し驚いて目をしばたかせる。
「……相当、酔ってる…?」
「ああ…酔ってるな…」
アルコールの勢いも手伝って、覗き込んでくる進藤の顔に見惚れていた。
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