パッチワーク 23 - 26


(23)
夜もひどくうなされておばさんは四年生になるまでヒカルに添い寝していた。
ヒカルの家に遊びに行って一緒に昼寝をするときにはおばさんにヒカルがうな
されたら「大丈夫」って何回でも言って上げてと頼まれたこともある。だから
昼寝するとき手を繋いだりもした。私も母からヒカルから目を離さないように
言われし、ヒカルがまたいなくなるのが怖くて私はいつもヒカルのあとにくっ
ついて行くようになった。おじさんやおばさんも自分たちか私が一緒でなけれ
ばヒカルを外へ出さないようにしていた。おばさんがずっと添い寝をしていた
反動か5年生のときうちとヒカルのうちで一緒に海の民宿に泊まったときや6年
生の修学旅行でも人が一緒だと眠れないと言って廊下で寝ようとして先生に怒
られた。小学校に入ってから無責任な噂で惚けたおばあさんが孫と間違えたと
か男の人が自殺の道連れにしようとしたとかいろいろなことが耳に入ったけれ
ど私には身近すぎて母に事件のことを聞くことはできなかった、だから私は今
でも何があったか知らない。私にわかっているのはあの時ヒカルがどこにいる
のか私たちにはわからなかったこと、憶えているのはヒカルにもう会えないか
もしれないと言う恐怖感だ。 段々良くなっていったけれど独り言などは中学
になっても続いていた。


(24)
小学校のときのヒカルの影のあだ名は「誘拐された子」だったけれど、中学での影のあだ名は「あの加賀のお稚児
さん」だった。男の先輩や同級生たちが「女の子だったら告ってる」「加賀がライバルじゃあ」「加賀にばれたら
怖い」とかヒカルにはわからないように言っていたけれど多分加賀さんが好きだったのはヒカルじゃなくて筒井さ
んだ。中学の学区廃止・選択制をにらんで先生たちが進学実績を上げようとしてたのに合格圏より3ランクも下の
筒井さんと同じ高校を選んだ。高校でも威張りたいんだろうとか言っていた人も多かったけれど東京だけでなく埼
玉・千葉・神奈川の高校も選べるこの地域では1つのランクで10から20の高校が選べる。上下2ランクずつ約100
校の中から受験日などを考えて3から多い人は10校近く受験する。それなのに加賀さんは筒井さんと同じ高校しか
受験しなくて筒井さんが不合格のところも合格したのに筒井さんと同じ高校を選んだ。でも、噂のおかげで女子で
も男子でも中学の間にヒカルのそばに寄ってくる人はいなくて私にとっては加賀さんはありがたい存在だった。


(25)
夜ヒカルが帰ってきたので部屋に挨拶しにいった。ヒカルの部屋にはいるのは秋の塔矢君との対局の前の日以来
だった。あの時はヒカルが途中で居眠りしそうになって怒ったら「塔矢との対局が楽しみでわくわくして一週間
ぐらい上手く寝付けなかったのにおまえと打ってたらなんか気持ちが落ち着いてきて眠くなったんだ。俺昼寝す
るから子どものときみたいに手を握ってて」と言われて子どもの頃のいつも二人でいたときに戻ったみたいで嬉
しかった。四月のときのことがあって。あれは私にとっては恋愛感情と関係ない好奇心の延長線上であまり気持
ちのいいものじゃなかった。ただ、高校に入って古文の授業のとき先生の雑談を聞いて自分が三途の川を渡ると
きはヒカルが背負ってくれるのかなと思ってそれはそれで嬉しかった。ヒカルは前と同じように好きだけれどヒ
カルとまたあれをしたいかというとそんなことはなかった。でも、もう子どものときのようにはヒカルと話すこ
とはできないんじゃないかと思っているあいだにヒカルが対局を休みはじめあのことのせいかと思ったけれどヒ
カルの態度を見てそうじゃないのはわかった。そしてヒカルがあの時みたいにやせていって心配していたらまた
対局に戻ってその間自分は何も関わりがなかったからヒカルとの距離を感じていた。だから余計に秋の時は子ど
もの頃に戻ったみたいで嬉しかった。


パッチワーク 2003 夏 あかり(高一) 了


(26)
このマンションに帰ってくるのは約一ヶ月ぶりだけれど三星杯から帰国したあとが記憶が曖昧なせいか
半月も経っていない気がする。管理人室に寄って救急車のことや長期の留守で迷惑をかぇたことをわびて、
お礼がわりのお土産に小田原名産の梅干しと籠清の蒲鉾を渡す。部屋の玄関を開けると湿ったようなほこ
りっぽい様な空気の臭いがした。救急車で運ばれたと聞いたのと自分に記憶がないのでどんなに乱雑にな
っているか、特に生ゴミの始末に覚悟していたけれどその気配がない。とりあえず持ってきた衣類をクロ
ーゼットにしまおうとして気づいた。彼の服がない。部屋を見回してみると彼がこの部屋においていた雑
誌や鞄もなくなっている。あわてて台所の食器棚を開けてみると彼の茶碗や箸、湯飲みやカップが無くな
っている。僕にとっては半月でも彼にとっては半年なのだと知識としてはわかっていても実感がない。だ
から切迫感がなさ過ぎたのかもしれない。のどに渇きを覚え冷蔵庫を開けると入っているのはビールやワ
イン・ミネラルウォーターで彼のために切らさないようにしていた清涼飲料水の類と食べ物がない。他に
もなくなっている物がないか確認しようと家の中をチェックしてみると彼の物が何も残っていない。まる
でここで彼と暮らしていたという僕の記憶が妄想であるかのように。逆に増えていたのは僕の服だ。パジ
ャマや下着類が僕の記憶しているよりも数が多い。 前に持っていた覚えはないけれど病院で着ていた覚え
のあるから誰かが病院に持ってきてくれたのだろうか?あっ、いけない市河さんに入院していた間の費用
立て替えてもらっていたんだ。多分、服も市河さんが用意してくれたのだろう。お礼の電話をしなくちゃ。



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