平安幻想異聞録-異聞- 230


(230)
間違いない。これが本体。蠱毒の蛇の親玉だ。
あの蠱毒の壺の中で喰らいあい、殺し合って残った大ムカデの怨念が、
人の精を喰らい、心の闇を喰らい、化けた成れの果ての姿だ。
幾十もの肉蛇達がうねり寄り、互いに身を絡ませるようにして、井戸と
ヒカル達の間を遮る。
これを切り分け、肉蛇の数を減らして、本体を調伏できる程弱らせるには、
いったいどれくらい時間がかかるだろうか?
「長丁場は無理なんだったな」
「あぁ、悪いな」
ヒカルはすでに息が上がっていて、肩で呼吸してた。おまけに熱もあるらしい事が、
背中合わせに立っているアキラにも触れる背の熱さで知れた。
「わかった。一発勝負で行こう」
「どうするんだ?」
「僕が符術で道を開く。君はそこから飛び込んで、あの本体を直接切りつけてくれ」
大胆なアキラの提案。
「一太刀でいい。たった一太刀でいいんだ。君が奴の外皮に傷を作ってくれれば、
 僕がそこに術力のすべてを叩き込んで、あれを内部から破壊してやる」
「わかった、やってみる」
どの道、ここで色々考え込んでも、益々周りを取り囲む肉蛇の数が増えるだけだ。
ヒカルは注意深く、蛇達が蠢く井戸への道筋を見極めながら言った。
「やれ、賀茂」
アキラが懐から、呪言の書き込まれた札を取りだし、呪文を唱えた後、
持っていた小太刀でその術符を縦に切り裂いた。
切り裂かれたその札から、青い炎が稲妻のように地を這い、井戸の方へ走る。
肉蛇の一部は焼かれ、一部はおたおたと炎から逃げ惑って、そこに数瞬だけ
道ができた。
ヒカルが、そこに飛び込む。
半刻前まで熱でふせっていたとは思えない、若い牡鹿のように鮮やかな
躍動だった。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル