平安幻想異聞録-異聞- 233
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すると、馬の姿が掻き消えて、代わりにその場にポトリと落ちた、白い小さな
花をつけたヒイラギの小枝が二本。
「式神だったんだ」
目を見開いて感心するヒカルに、雨に濡れながらアキラはただ静かに微笑んでいた。
ヒカルは手を蒼穹にかざした。雨足は衰える様子がない。
容赦なく体を打つ雨は、しかし、熱を持ったヒカルの体にはひんやりと冷たく、
奇妙に優しかった。
「ははは……気持ちいい」
久しぶりに晴れやかに笑う。
「うん」
アキラも、顔が雨に晒されるのもかまわず、天を見上げた。
その賀茂アキラの肩にまだ残る、先ほどのの戦いの痕跡。
蛇に噛みつかれたその傷の血も、雨が洗い流してゆく。
その様子を眺めて、ヒカルが言った。
「おまえも、無茶するよなぁ」
「君の為なら、無茶のひとつもするさ」
「まさかおまえ、俺がお前の家で蛇に襲われたときの事、まだ気に病んでるって
ことはないよな? あれはしょうがな…」
「違う」
「じゃあ―」
「僕が、君を好きだからだよ」
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