平安幻想異聞録-異聞- 237 - 238


(237)
あの騒ぎの後、座間の姿を見たものはいない。遺体も発見されなかった。
平安京の右京のはずれのある家からは、今回の呪詛に関わったらしい陰陽師が、
何者かに切り裂かれ、食われたような無残な姿で発見された。
内裏では、座間がいなくなった事により空位になった地位を巡って、すでに
貴族達の権力争いが起きているという。
事件の後、賀茂アキラが近衛の家に来て、何が起こっていたのか、ヒカルの
知らない部分を説明してくれた。藤原の血を引く梅壺女御、その彼女と
帝の寵愛を競う桐壷女御。座間家の血を引くその桐壷が、三人の子を
もうけながら男子に恵まれなかった事。反対に、それまで懐妊の気配のなかった
梅壺が初めて宿した腹の中の子が、易占によって男子であると判ぜられた事。
もし本当に梅壺の子が男子であり、皇太子となれば、その血筋である藤原派閥の
権力はより揺るぎないものになるだろう。反対に桐壷を推していた座間派の
零落は否めない。だからこそ、座間は魔物と契約を結び、呪詛によって、
梅壺女御とその腹の子の命を奪おうとしていたのだ――。
「まわりくどい言い方をしないで説明するとね、君は梅壺女御様を殺める呪法の
 ための、魔物の供物にされかかったんだよ」


(238)
アキラにそう説明されてヒカルは、自分がいつのまにか、思いもしないような
大きな事件に巻き込まれていたことに気付き、改めて震え上がった。
一人になってからヒカルは、座間邸に自分が捕らわれた最初の日、座間が
言っていた事を思い出した。
『わしがお前を使って、佐為の奴や、行洋の失脚でも狙うとおもうたか?
 そのようなこと、わざわざお前ごとき小者を使わんでも、いくらでも
 やりようはあるわ』
だが結局これでは、座間は梅壺女御を呪殺し、政治的権力を守るために
ヒカルを利用しようとしたことにならないだろうか?
大貴族として高い矜恃を持っていた彼を、そんな風に、前言をひるがえさせる程に
追いつめたものとは、いったい何なのだろう?
ヒカルは、座間をそこまで追いこんだ、人の心の闇について思った。
そして、その人の心の闇を生み出した、あの内裏という場所が内包する、
なお濃い闇の深さを思った。



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