無題 第2部 24
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彼はまだそこにいた。
名を呼ばれて、ゆっくりと緒方に振り向いた。
雨の中を傘も差さずに来たのか、全身が濡れそぼっている。
その眼に涙が光ったように見えたのは気のせいだったのか。
「バカヤロウ!何してるんだ、こんな雨の中…!」
緒方が肩をつかむと、アキラは苦も無く体重を緒方に預けた。
「…どうしたんだ…?大丈夫か…?」
両肩を掴まれて、初めてアキラは緒方を見上げたが、その目は虚ろで、何の感情もみえない。
何があったのかはわからないが、魂の抜けたようなアキラの目が痛ましくて、緒方は雨に濡れた
身体を抱きかかえ、そっと、尋ねた。
「うちに…来るか…?」
腕の中で、小さくアキラが頷いた。
―オレの所で、いいのか?
そう思いながらも、緒方はそれを口にする事はできなかった。
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