アキラとヒカル−湯煙旅情編− 24
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「進藤・・・。」
アキラがゆすっても起きようとしないヒカルの布団を剥ぎ取り、加賀がけりを入れる。
「だぁ――っ! 痛えな。なにすんだよ。」
「てめえら、いつまで寝腐ってやがる。 メシ行くぞ。筒井もさっさと起きやがれ。」
筒井がボワーンとしたまま、起き上がる。
「あれ、メガネが・・・?」
テーブルの上に置いておいたメガネをアキラに差し出される。
「ありがとう。あれ?」
加賀とヒカルがじゃれあってる。そして、傍らで、陽光の中微笑む塔矢アキラの美しさに、筒井は息を呑んだ。
「うーん。」
「唸ってねえで、メシ行くぞ。」
加賀は、筒井の頭をポンと叩くと、一方向を見つめていた。
ヒカルと楽しそうに語らう塔矢アキラ。
「うーん。」
再び、唸り声を上げる筒井だった。
朝食を済ませると、ヒカルたちは仕事の関係ですぐに立たなければならず、4人はロビーで別れた。
「じゃあな。」とそっけなく言うと、加賀は後ろ手に手を振って、去っていった。
「進藤君、また会おうね。」
そう言うと、筒井もあわてて、加賀の後を追った。
二人が見えなくなるまで、アキラはその後姿を見つめていた。
(ごめんなさい。・・・ありがとう。)
ヒカルが清算を終えて、タクシーに乗り込むと、アキラはヒカルの手を握った。
「進藤・・・ボク・・・。」
「塔矢、ごめんな。せっかくの旅行だったのに、オレ酔いつぶれちまって。
だけど、オレ達にはたっぷり時間がある。これから少しずつでもいいからおまえに近づいていきたい。」
ヒカルがアキラの手を強く握り返してきた。
加賀に抱かれた事をアキラは後悔はしてはいなかった。あの時の自分には加賀が必要だった。
結果的に、加賀を傷つけることになったかもしれない。エゴイズムだと充分承知していた。
話せば、ヒカルは離れていくかもしれない。それでも、加賀とのことを、隠し続けることは出来そうになかった。
ただ、今はヒカルの手のぬくもりの中にいたい。アキラはそっと、ヒカルの手に口づけた。
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