誘惑 第三部 24
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浴室から出ようとした時にアキラの足元がよろけた。
「塔矢!?」
崩れそうになるアキラの身体をヒカルは必死で支えた。
「…大丈夫、ちょっと、貧血…」
それ見ろ、と、実は心の中では思ったけれど、口には出さなかった。
バスタオルでアキラの身体を包んで抱えるようにして部屋へ戻り、ベッドの端に座らせて、パジャマ
を着せてやった。アキラは大人しくヒカルのされるがままになっていた。
服を着せてもらって、子供のようにヒカルを見上げるアキラがとてつもなく可愛く見えて、思わず頭
を抱きしめた。
腕の中でアキラがくすっと笑ったような気がした。
「髪、乾かさなきゃな。」
そう言って、後ろから抱え込むように座って、アキラの髪にドライヤーをかけはじめた。
温風を当てて乾かしていくだけで、アキラの髪はいつも通りのまっすぐのサラサラな髪に戻っていく。
「オレ、おまえの髪、いじってみたかったんだ。」
ヒカルは手の中の髪の感触を楽しみながら、丁寧にアキラの髪を乾かしていった。
「熱くない?」
「うん。」
こいつの髪って、ホントきれいだな。そう言えば寝癖がついたりしてるのも見たことないや。
つやつやで、サラサラで、イイ匂いがして。
乾ききったアキラの頭を抱え込むようにして胸に抱くと、アキラがくいと顔を上げた。
見上げるアキラと、覗き込むヒカルの目が合う。
そのままヒカルはアキラの額にチュッと軽く音を立ててキスをした。
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