初めての体験 Asid 24


(24)
 心にもないことを老人に言い続けるのに疲れた頃、料理が運ばれてきた。ボクは、
さりげなく料理を見分した。ふ…ん…やはり、椀物が怪しそうだ。
 ボクは、巧みにそれをよけて口に運んでいく。本因坊の目が、ボクの動作を鋭く見ていた。
うーん、困った。一口ぐらいなら大丈夫なような気もするが…。
 いつまでたっても、椀を口にしないのに焦れて、老人が催促する。
「飲まんのか?赤出汁は嫌いか?」
「ボク、好物は最後にとっておく主義なんです。」
そう言って、かわしたが老人は納得していないようだ。ウソじゃないのに…アッチの
趣味だって、進藤ではなく他の相手でガマンして――――和谷とか芦原さんとか…先生、
あなたとかね。うぅ、それなのに…老人は射るような視線を送ってくる。
 ちィ…!仕方がない飲んでみるか…!ボクが飲むと、抑制が利かなくなりそうで怖いの
だが………。正気に戻ったとき、死体が転がっていたらどうしよう……。
 ま、そうなっても、桑原本因坊の自業自得だよね。

 ボクが、椀を口元に持っていったちょうどその時、老人に電話が入ったと仲居が呼びに来た。
忌々しげに舌打ちをして、本因坊は中座した。電話ならここで受ければいいと思ったが、
ここのは、内線専用らしい。ともあれ、お陰でボクは助かったわけだ。
 桑原先生が部屋を出ていくと、ボクは素早く自分の椀と先生の椀をすり替えた。そして、
念のため、すり替えた椀の中身を庭に捨てた。自分の分にまで入れているとは思わないが、
念には念を入れないと…。
 先生は、酒を飲むだけで料理にほとんど手をつけていなかったし…可能性はないとは
えない。ボクは、用心深い性格なので、極力危険は避けたいと思っている。
 それにしても、もし…もしも…だ。老人がアレを飲めばどうなるか――実に興味深い。
ボクの好奇心が疼きだした。



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