トーヤアキラの一日 24 - 25
(24)
驚いて顔を上げたヒカルだったが、いつもの様に大声を出す事は無かった。
アキラを見ると一瞬絶句してから
「塔矢・・・・・」
と元気なく言う。
「今日の結果は?」
「あぁ・・勝った。・・・・・何してるんだよ、こんな所で」
「キミを待っていた。ちょっといいかな」
「・・・・・・・」
アキラが歩き出すとヒカルはその後を付いて来たが、横に並んで歩こうとはしなかった。
ずっと下向き加減で足取りも重く、話す事を拒否しているように見えた。
アキラは、そんなヒカルの様子に一縷の望みを絶たれた思いがした。忘れていた寒さが
再びアキラを襲い足元が震えた。
アキラは駅近くの公園に入って行った。駅の近くとは言っても、大通りからは直接見えない
場所なので人通りも無く、この寒さの中で遊んでいる子供も一人も居ない。
公園の奥にある大きな木の側まで来ると、アキラは体ごとヒカルに向けて振り返った。
ヒカルも足を止めたが、相変わらず下を向いている。アキラもまともにヒカルを見ることが
出来ずに足元に目をやりながら、何から話したら良いのか考えていた。ヒカルの様子から、
自分の気持ちを受け入れてもらえない事は察しがつき、もう一度「好きだ」と強く訴える
元気が出て来ない。このまま嫌われてしまうより、自分の「好きだ」と言う気持ちを抑えて、
今まで通り碁の話が出来る関係に修復させたいとアキラは思った。
「ごめん、進藤。・・・・・・この前言った事は忘れて欲しい・・・・・」
無念の思いが一杯で、その先の言葉が出てこない。心臓は高鳴り、自分の想いを伝える術が
わからず体が強張って来る。
その時、ヒカルのぎゅっと握られた震える握り拳がアキラの目に入って来た。
───殴られる?
そう覚悟してヒカルを見上げると、ヒカルは目にうっすらと涙を滲ませてアキラを見ていた。
(25)
この日初めて視線を合わせた二人だが、それだけで気持ちが通じることは無かった。
「進藤?」
「どういうつもりだよ!ふざけんなよ!」
ヒカルは、溜めていたものを勢い良く押し出すように言った。
「えっ?」
「いきなりオレの事好きだとか言っておいて、一ヶ月も放ったらかしてさ!!その挙句に
忘れてくれって何だよ!オレの気持ちを弄ぶのもいいかげんにしろよ!!」
「そ、そんな・・・違う、違うよ。誤解だよ」
「何が違うんだよ!今、忘れてくれって言ったじゃないか!」
「それは違う!ボクの気持ちは変わらない!キミが好きだ、進藤!本当だ!」
「じゃあ、何で一ヶ月も放っておいたんだよ!」
「・・・・キミが考えてみる、って言ったから・・・・・考え終わったら連絡してくれると思って・・」
「・・・・・・何だよそれ。普通告白した方が連絡するだろ・・・・・」
「えっ?そうなの?・・・・・ごめん、知らなくて・・・」
「いつものお前なら、こっちが迷惑でも平気で押しかけて来るだろ!」
「・・・ごめん・・・てっきりキミに嫌われたと思って・・・」
「オレがこの一ヶ月、どんな気持ちで過ごしてたのかお前にわかるのかよ!」
アキラの頭は混乱して、高鳴っていた心臓は停止状態になっていた。
ただ、ヒカルが自分の気持ちをぶつけて来てくれた事で、逆に強張っていた気持ちが
救われて、自分の想いを伝えることも出来るような気がして来た。
「聞かせて欲しい。キミの気持ちを聞かせて欲しい」
一歩前に出てヒカルの顔を見つめる。
ヒカルは握り拳をゆっくりと解き、肩の力を抜きながら溜息をついた。
「お前の気持ちが変わらないって言うのは本当かよ」
「本当だよ!本当だ。キミへの気持ちは変わらない。いや、前よりももっとキミの事が
好きになっている。・・・・・だから進藤、キミの気持ちを聞かせてくれるか?」
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