金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 24 - 25


(24)
 アキラは学校に上がると同時に部屋をもらった。お兄さんになったみたいでうれしかったが、
さすがに夜は少し寂しかった。今までは両親に挟まれて、眠っていたのに……。
 さほど広くはない部屋だったが、六歳のアキラが一人で寝るには静かすぎた。
 『怖いんじゃないんだよ。ただ、ちょっとだけさびしいだけなんだ。』
と、口の中でモゴモゴと独り言を言った。
 犬や猫は無理でもハムスターや小鳥のような小さいものだったら、どうだろう?アキラは
店の奥の方へと入っていった。
 鳥かごが壁に据え付けられ、その前にはウサギのケージが置いてある。その隅の方から
ピイピイといくつもの高い鳴き声が重なって聞こえてくる。アキラは、誘われるように
賑やかな声のする方へ向かった。
 ガラスの水槽の中で、まだ小さいひな鳥たちが一生懸命口を開けて、エサをねだっている。
「かわいいね。」
アキラがエサを与えている店員のお兄さんに話しかけた。
「ヒナのうちから人間になれさせておくと、手乗りになるんだよ。」
「本当?」
手乗りの小鳥。すごくすてきかもしれない。
「まだ自分で食べられないから、一日に何度もあげないといけないけどね。大変だけど
 すごく可愛いよ。」
「一日に何度も?」
「そうだよ。お腹が空くと死んじゃうからね。」
アキラはガッカリした。朝と夕方はいいとして、学校に行っている間はどうなるんだろう。
夜アキラが眠ってしまったら?九時には布団にはいるように言われている。そこから、
朝までヒナが鳴いても目が覚めなかったら?アキラはブルッと小さく身震いした。
――――――小鳥もダメだ。


(25)
 アキラはションボリと項垂れて、さらに奥へと進んでいった。
「ハァ〜」
盛大な溜息を吐いて、通路を歩くアキラの目の端に赤いものが横切るのが映った。
『ナニ?花びら?』
そちらの方へ首を向けると、ヒラヒラした尾びれを振りながら、金魚が泳いで行くのが見えた。
他の金魚よりずっと身体が小さくて、そのくせ元気に水槽の中を泳ぎ回る赤い金魚にアキラの目は
釘付けになった。
「落ち着きないなあ。」
他の金魚がゆったりと水中を漂う中、その一匹だけは忙しなく動き回る。
 アキラはいつの間にかその金魚から目を離せなくなった。

 「アキラさん、ごめんなさい。遅くなってしまって…」
母が重そうな買い物袋を手にアキラを迎えに来た。アキラは夢中になって何かを見ているらしく、
母の声に気付いていない。そっと、後ろから近づいて何にそんなに夢中になっているのかと
覗き込む。
「あら…可愛い。流金ね。」
その感嘆の声に漸くアキラは母が迎えに来ていたことに気が付いた。縋るような目をして
振り向いたアキラに、母は「あら?どうしたの?」と、優しく声をかけた。
アキラは母のスカートに縋り付いた。
「お、お母さん…!」
「ん?」
ゆったりと聞き返す母とは対照的に、アキラはつっかえながら早口で訴えた。
「こ、この金魚買って。ボク、一生懸命面倒見るから…」
「お願いします。」
ぺこりと頭を下げるアキラに、母は少し面食らったようだ。アキラがこんな風に何かをねだるのは
およそ珍しい。
「お願い、お母さん…お手伝いもいっぱいするから…」
アキラは必死に訴える。母の沈黙をアキラは拒絶と考えたからだ。
「よほど欲しいのねえ…」
母がしみじみと…半ば呆れるように呟いた。
「いいわ。でも、アキラさんがきちんとお世話をしてあげるのよ?」
その言葉にアキラは顔を真っ赤にして、何度も頷いた。



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