初めての体験+Aside 24 - 25
(24)
「オレ、買い物行ってくる…」
ヒカルは、しょんぼりと立ち上がった。
「進藤、ボクも行くよ。」
だが、ヒカルはアキラが立ち上がろうとするのを制した。
「いい!塔矢は大将だから倉田さんと北斗杯の相談でもしてろよ。オレ、社と行く!」
『ええええ!!進藤と買い物!?』
嬉しすぎる。心臓がバクバクと音をたてた。
「行こ!社!」
ヒカルが社の腕を掴んで、立たせようとする。ふくれっ面の可愛らしい顔が、社の眼前に
あった。少し涙を滲ませた瞳に、しばし見とれてしまった。
――――ハッ!
背中に突き刺さるような視線。「…ツンドラ?」と、いう言葉がまた頭を過ぎった。振り返るのが怖い……。
「早く行こ!」
ヒカルに引っ張られて、部屋を出た。アキラは怖いが、ヒカルと「お・買・い・物」と
いうシチュエーションには抗えない。
『後のことは、後で考えたらええんや!オレは、今の幸福をとる!』
(25)
近所のスーパーの中を二人で歩く。社の持つ籠の中にヒカルが肉じゃがの材料を放り込んでいく。
時折、ヒカルが「どっちがいいかな?」と小首を傾げて尋ねる。その仕草が、何とも言えず
愛らしかった。なんか、ホントの恋人同士みたいだ。こんな時間をもてただけでも、
アキラの家に来た甲斐があったと思う。
『怖いのん我慢してよかった〜』
浮かれて歌でも歌いたい気分だ。
―――――ええと…人参…タマネギ…ジャガイモ…牛肉…それから…
あと一品で材料が揃う。だが、ヒカルはそのコーナーを無視して別の場所へと向かった。
「あれ?進藤…白滝買わへんの?」
社が、訊ねるとヒカルはちょっとムッとして言った。
「いいんだ。今日はカレーにしたから!」
「そやけど…倉田さんが…」
「いいの!倉田さんってば、意地悪なんだから!」
そう言いながら、カレーのルーを物色する。どうやら、仕返しのつもりらしい。
『コレが進藤の仕返しか…なんかメチャクチャ可愛(かい)らしなぁ。』
口元がほころぶ。自分は肉じゃがでもカレーでも何でもいいのだ。ヒカルが作るということに
意味があるのだから。
社は比較的甘そうなものを選んで、ヒカルに見せた。
「進藤、これどうや?」
「ダメだよ!もっと辛いヤツじゃないと!」
ヒカルは、二つの箱を手に持って真剣に見比べている。どちらの箱にも「激辛」の二文字が
記されていた。
ヒカルは辛党なのか?いかにも甘いのが好きそうに見えるのに…人は見かけによらない…。
と、考えてハタと気がついた。コレも仕返しの一つだ。
―――――ホンマに可愛いやっちゃ!抱きしめて頭ぐりぐりしてぇ!
「なあ、進藤…自分、そんな辛いヤツ食えるんか?」
何となく訊いてみた。
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