闇の傀儡師 24 - 26
(24)
「ボクがついている…。だから、悪い夢に負けちゃだめだ、進藤。」
白く細く柔らかなヒカルの首にはまだ痛々しい程に赤く焼き付いたような縄の後が
くっきりと浮き上がっていた。
手首の時の同様にアキラはそこに顔を寄せて舌を動かした。
「う…ん…」
今まで味わった事のない不思議な感覚にヒカルは頭の中がぼおっとした。
傷を消そうとしてくれているだけだと思っていても、何故か胸がドキドキした。
アキラはヒカルのジャージの胸元のファスナーを下げ、開いた。そこに現れた首から胸に走る
赤い縄の模様に眉を一瞬潜め、その痕を辿ってアキラの舌は動き続けた。
ヒカルはただ目を閉じてじっとベッドに横になっていた。
その時横になった状態にも関わらずぐらりと目眩がした。
ーまただ、と思ったがその時はもう既に声が出なかった。アキラはヒカルの異変に気がつかないまま
行為を続けている。暗闇に吸い込まれるようにヒカルは瞬時に眠りの淵に落ちて行った。
再び意識が戻るとやはり両手首を縛られ、四つん這いの体位にさせられていた。
「…どうやら邪魔者が来ているようだな。でも、時間の問題だ。君の身も心もじきに
私のものだよ、ヒカル君…。」
「お、お前なんかの好きにさせねえからな!」
ヒカルは男の声のする上の方へ顔をあげようとした。そのヒカルの目に映ったのは男の顔ではなく、
暗闇に浮かんだ明かり―火のついた赤いロウソクだった。
ヒカルがぎょっとしている間にその火の根元から赤い雫が落ちて来て、ヒカルの背に落ちた。
(25)
「うわああああああっ!」
「進藤!?」
ヒカルの胸元からアキラは驚いて顔を上げた。
静かに横になっていると思っていたヒカルが、突然悲鳴を上げて体を仰け反らしたからだった。
「ああっ、あ、熱い!!」
目を見開いているが何も見えていない様子でヒカルはそう叫んで見悶えるが、手足は自由に
ならないように投げ出した位置から動かない。
「進藤、どうしたんだ、目を覚ませ!しっかりしろ!」
そうアキラが呼び掛けてヒカルの肩を揺すり、頬を軽く叩くがヒカルが目覚める様子はなく、
さらに2度3度叫んでは首を振って喘ぐ。
男の部屋で、ヒカルの背には落とされた赤いロウによって模様が描かれていた。
「あっ…あっ…」
ヒカルは涙ぐみ、顔を床に伏せて全身をカタカタ震わせていた。
「少し位置が近過ぎたようだね。ごめんよ、今度はもう少し離してあげるからね。」
男はそう言うと今度はヒカルの体を仰向けにした。
背中に熱いロウをかけられた苦痛で喘ぐヒカルの体の上で、再度赤いロウソクが傾けられ、
白い胸元の突起周辺に赤い雫が落ちた。
「ぐあああっ!!」
ヒカルの部屋のベッドの上で一層激しくヒカルが身を捩らし、アキラも必死で
何度もヒカルに呼び掛ける。
そのアキラの目の前で、縄の痕が消えかかっていたヒカルの白い胸の上に見る見る内に
今度は火傷に近いまだらな赤い模様が広がっていった。
(26)
「お願い…許して…」
床の上でヒカルは息も絶え絶えに哀願する。
さっきよりも高い位置から落とされたロウの雫は若干温度が下がっているものの、それでも
弱い皮膚の上に相当の熱を持って弾ける度にヒカルに悲鳴をあげさせ、身を踊らさせた。
そんなヒカルの姿態を喜ぶかのように男は興奮した呼気を漏らし、さらに皮膚の弱そうな
左右の小さな突起を狙って交互にロウを降らす。
「あうっ、ううーっ!!」
今はひたすら胸の上で火花が走るような衝撃に耐えるしかなかった。それでも先に落ちた
ロウが冷えて固まり、幾分か苦痛が弱まってきた。
いや、そのせいだけではなかった。
何故か急激に火傷の痛みがその部分から引いて行く。そして逆に切ない刺激に変化して行く。
「…は…あっ…」
ヒカルの部屋で、アキラが赤く膨れ上がったヒカルの胸部を舐めて癒していた。
「進藤、しっかりしろ…、現実に戻って来い…!」
一瞬、そんなアキラの声がヒカルの耳に聞こえて来たような気がした。
そしてアキラの柔らかな唇がもっとも赤く痛々しく腫れ上がったヒカルの突起を含んだ。
痛みでは無い、そうじゃない刺激をヒカルの中に送り込もうとしているかのように。
そうだ、これは夢なんだ。自分の意識を自由にさせるもんか。
ヒカルは目を閉じてそう自分に言い聞かせようとした。
一方の突起から腫れがおさまるのを見て、アキラはもう片方の突起も口に含み、舌で愛撫する。
意識がここには無いとは言え、徐々にヒカルの体がそれに反応を示し始めていた。
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