平安幻想異聞録-異聞- 241 - 245


(241)
「佐為の…勃ってんじゃん…」
そう言いながら、ヒカルの手が夜着の上から、佐為のモノをまさぐる仕草に、
驚いたのは佐為のほうだった。
「ヒカル、やめなさい!」
「だけど佐為、これどうすんの?」
「そんなのは、ヒカルが気にしなくてもいいんです!」
「一人で始末しちゃうんだ。ふぅん…」
その「ふぅん」と言ったヒカルの言葉にイタズラめいた響きが感じられたのは
佐為の気のせいではないはずだ。
「じゃあ、オレがしてやるよ」
言うが早いが、ヒカルは手を佐為の夜着の袷から忍び込ませ、頭をもたげかけて
いた佐為のそれを、直接、手で握りしめた。
「ヒカル、いいです! いりませんってば」
「オレがよくないの! オレが誘ったのに、お前を放りっぱなしって、
 なんか責任感じるんだよ」
「そんな責任、感じる必要ありません」
「照れるなよ、オレとお前の仲じゃん」
床の中から逃げ出そうとする佐為を、ヒカルはしっかりと捕まえた。
掴んだ袖を、ずるずると引きずり込むようにして、佐為を床の中に連れ戻す。
「覚悟を決めろよ、男らしくないぞ!」
それから、床のなかに戻ってきた佐為をぎゅうっと抱きしめてその胸に顔を
押し付けるようにして小さくつぶやいた。
「わかるから…佐為がオレの為に我慢してくれてんの、わかるからさ…。
 だからオレにも、佐為のためになんかさせてよ」
その言葉に、佐為が動きを止めたのを見計らって、ヒカルはもう一度、
佐為のモノに手を伸ばした。
たどたどしい手つきで、探るように根元から先に扱いてみる。
手の中で脈打つそれがピクリと震えて、少し固さを増した気がした。
安心して、手の動きを続けた。どんどん熱くなっていくのがわかる。
「佐為、動くなよ」
小さく言ってから、ヒカルは佐為の着物の前をはだけると、おもむろに
その下肢に顔をうずめ、唇を寄せた。


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最初はその尖端から。根元まで、その形を確かめるみたいに、ゆっくりと
舌をからめ、裏の筋の場所までしっかりと愛撫する。陰嚢まで丁寧に口に
含むようにしてなめて転がす。
もう一度尖端まで戻ってから、その屹立するものを口の中に銜え込んだ。
舌でその表面を刺激しながら、唇を使い、まるで下の口でするように、
締め付けながらしごく。
その感触に思わず佐為が細い眉を寄せ、少し苦しげな快楽の声を漏らすのを
聞くと、ヒカルはなんだか自分がされてるみたいに心地良く、こそばゆい
ような気持ちになるのだ。
突然、強い力で褥に組み敷かれた。
深く口付けられる。その唇を放して佐為が言った。
「ヒカル、大人をからかった責任はちゃんと取りなさい」
ヒカルは、それでも自分に体重を全部かけないように気を使ってくれて
いる佐為が、嬉しかった。
「だから…、さっきから大丈夫だって、言ってんじゃん」
言って、自分から佐為に唇を合わせる。
本当はまだ佐為の言う通り、少し人と肌を触れ合わすのは怖い。
だけど、佐為となら大丈夫、平気だと思ったのだ。
佐為の薄くてやわらかい唇が、ヒカルの少しふっくらとしたそれに
強く押し付けられる。
舌を絡めていったのはヒカルの方からだった。佐為がそれに答えて、
口付けは、いつのまにか、互いの唾液を奪い合うような、激しいものになった。
佐為の唇が降りてきて、ヒカルの鎖骨のあたりをちくりと噛む。
たったそれだけのことに信じられないくらい感じて、ヒカルは思わず
うわずった声を上げていた。
素直に気持ちがいいと思った。


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ヒカルの着衣を脱がせながら、徐々にあらわになるその素肌に、佐為は次々と
あますところなく口付けの雨を降らせる。
心も体も満たされていく感覚。
座間の元に居た時、あの部屋で、毎夜この世のものとは思えない快楽の海に
突き落とされ、喘ぎ、浅ましくよがり狂った自分をヒカルは否定できない。
――けれどあの場所には、こんな心が一杯になるような、胸がつまるような
幸福感はなかった。
その幸せな感覚を手放したくなくて、ヒカルは佐為の首に手をまわし、
引き寄せて、その首筋に顔を埋めて口付ける。佐為も応えて、そのヒカルの
背中にしっかりと手を回すと、ヒカルのやわらかな髪の中に顔を潜らせ、
唇で愛撫してくれた。
悦楽の中を恍惚と漂いながら、ヒカルは思う。
ヒカルは今では、自分の体が、こうして与えられる快楽にいかに弱いか
知っている。
それはヒカルが抱える闇だった。
出来ればそんな自分は誰にも知られたくない。
でも、佐為になら、知られてもいいと思うのだ。佐為になら、そんな自分が
心の深淵に抱える闇ごと、自分を預けてしまえると思うのだ。
反対に、ヒカルは佐為の持つ心の闇も知っている。
こうしてどんなに情を交わし、自分に愛の言葉を囁いていても、いざ自分と
囲碁とを並べて、どちらかを選べと言われたなら、この碁打ちの人は、きっと
囲碁を選ぶだろう。それは、確信だ。
綺麗で優しくて、誰より残酷な佐為。
でもヒカルは、佐為のそんな闇の部分も承知の上で、この人を好きで仕方が
ない。
そういう佐為だから、こんなにも捕らわれてしまうのだ。
人は誰でも、そうやって心の奥深くに闇を抱えて、それを見つめて生きて行かな
くてはならないのだろう。
ヒカルはふと、アキラの事を思った。


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そして彼の心を映したように、美しく清冽で、どこか寂しげな式神たち。
彼もこんなふうに、心に抱える闇を持っているのだろうか?
(あいつともっと話してみたいな。)
ヒカルは、山奥の湖水のように静かな、あの陰陽師の瞳を思い出した。
「何を考えているのですか? ヒカル」
我に返る。
「なんでもない…」
そうして二人は、今お互いがここにある幸福を噛みしめるための行為に、
再び没頭する。
ヒカルの手も自分を抱く人のしなやかな肌の上をさまよい、お互いの体を
まさぐり、睦みあう。
佐為が、ヒカルの手を持ち上げ、右手の小指を口に含んだ。
「きゃんっ……」
ヒカルの口から、子犬のような悲鳴がもれた。
そこは佐為だけが知っている、ヒカルが一番感じる場所だ。
小指の爪を甘く噛み、そのやわらかい指の腹を思う存分に濡らすと、次は
薬指、中指とその輪郭をたどって舌をゆっくりと這わせる。
「…ぁぁ……」
ヒカルが耐えきれないと言うふうに、首を振った。
その唇は、やがて手から手首へ移り、皮膚の下に透けて見える血管を
なぞるように舌で愛撫すると、腕を徐々にのぼって行き、肩から首筋へと
辿りついて、ゆるやかにヒカルの耳の後ろのあたりを刺激し始めた。
くすぐったさに、ヒカルは肩をすくめ小さく笑いながらも、甘い溜め息をつく。
佐為の唇は、そのままヒカルの首筋の肩近くの所と耳の後ろをゆっくりと何度も
往復しながら、時に軽く歯ではさみ、時に舌でそっと嘗め上げ、ヒカルの体から
完全に力が抜けてしまうまで愛撫し続けた。


(245)
もう一度最初から、とでも言うように、佐為が再び、指先から丁寧に愛戯を
ほどこし始めた。
すでに充分に高められて過敏になった体には、それはよりいっそう強い刺激と
して受け止められ、なんだか焦らされているようで、ヒカルは何度も甘える
ように佐為の名を呼んだ。
佐為の手管で乱されていくヒカルは、そんな自分を隠そうとはしなかった。
感じるままに身悶える。
ヒカルの存在を確かめるようなその長い前戯のあと、ようやっと中に入ってきた
佐為のモノの感触に、ヒカルはほっと安心したように息をついた。
「ヒカル、気持ちいいですか?」
「うん……」
ヒカルが小さく頷く。そのヒカルの耳元に唇をよせて、佐為がささやく。
「ヒカルの中も気持ちいいですよ」
その佐為の物言いに、ヒカルは顔を赤らめた。
「恥ずかしいやつ……」
「ホントの事です」
そう言って、中で動き始めた佐為に、ヒカルは甘い声を上げ始める。
「ぁ…あ……いい……」
と、そんな会話の後だったから、その言葉は、自然にすんなりと口から
突いて出た。
「……いい……いい……、佐為…」
喘ぎ声にもすすり泣きにも似た、その言葉を、佐為は口付けで部屋の外に
漏れないように塞ぐ。
でも唇でした蓋をわずかに外せば、それだけで、ヒカルの口からは
押さえきれない嬌声が漏れた。
その甘い声の間に混じる囁きのようなヒカルの言葉に、佐為が耳を傾ける。
「……は……ぁぁ…あ、佐為……もっと………もっと、佐為が…ぁ、欲しい」
それは、佐為にとっては、自らの情欲をからめとる呪のような言葉だった。
折れるほどに抱きしめられ、より強く中を擦られる快楽に、ヒカルの背中が
のけ反った。



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