平安幻想異聞録-異聞- 247 - 248
(247)
折り重なって、ふたり、情事の後の呼吸を整える。
その額に貼り付く金茶の前髪を優しく掻き分け、佐為はヒカルの眉間に
ゆるく口付けをする。そのまま、鼻梁をつたって降りて、度重なる口付けに
紅く染まった唇にたどりつく。
口角をずらして重ねて、舌を差し入れ、そのまま、ふたりは慈しみ合うように、
互いの舌をからめて静かに愛しあう。
体をしっとりと湿らせていた汗も少し冷えたころ、ヒカルが言った。
「佐為、もっと……」
「だめですよ、今日はもうおやすみなさい」
「でも、佐為の、もうオレの中で――」
固くなってんじゃん。と、つぶやきながら、ヒカルはまだ自分の中にある佐為の
モノを意識して締めつけてみせる。
「ヒ〜〜カ〜〜ル〜〜」
ちょっと辛そうな顔をして、自分を睨みつけてくる佐為がおかしくて、ヒカルは
声を立てて笑った。
「あぁ、でもそうかもなー。佐為はもう年寄りだしー、もう一回は無理かもなぁ」
「ヒカル、そういうこと言うと、本当に泣いて頼んでも放してあげませんよ」
「いいって、いいって」
そして、ヒカルは照れながら、それでも佐為の目をまっすぐ見つめてつぶやいた。
「朝まで、ずっと抱いててよ」
やがて、ヒカルが、帝のいいつけにより
遠い出雲まで使いにやらされ、
その間に、いつの間にかお膳立てがされていた
帝の囲碁指南役をめぐる囲碁対局に、佐為が赴き、
不当な汚名を着せられて、入水することになるのは、
それから約2年後の話である。
(248)
<結び>
パチリ…と盤上に石の打たれる音がする。
千年前と変わらぬその音。
だが今、佐為は、その石を自らの手に持つことはできない。
目の前で、碁盤に石を放つのは、金色の前髪を持つ少年。
その名を進藤ヒカルという。
少年が自分の白石にカカって来たのを見て取って、
佐為は次に石を打つ場所を扇で指し示す。
――それにしても、なんという偶然であることか――
名前が同じだけではない。その面差しも、自分を見返す瞳の率直さも
千年の昔に自分のすぐそばにいたあのヒカルを思わせた。
輪廻転生というものが本当にあるのなら、
まさにこのヒカルはそうなのかもしれないと思わせる程に。
(だが、本当にこのヒカルがあのヒカルの転生なのだとしても関係ないこと)
前世は前世、今生は今生だ。
近衛ヒカルと、進藤ヒカルは、似ているけれどやはり別人だと思う。
近衛ヒカルはこれほど碁にのめり込むことはなかったし、
反対に進藤ヒカルは、近衛ヒカルほど自分を殺すことはうまくない。
それに、今の佐為には碁石に触れることができないのと同様、
ヒカルに触れることが出来ないのだ。
だから、もし、ヒカルとヒカルが同じ魂を持っていたところで、
何の意味があるだろう。
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