アキラとヒカル−湯煙旅情編− 25
(25)
「加賀ぁ。」
「なんだよ」
「・・・なんでもない。」
部屋では、先ほどから同じようなやり取りが繰り返されていた。
筒井は、座椅子にもたれながらテレビのワイドショーに見入る加賀の横顔を見つめていた。
加賀の様子が少しおかしいのは、夕べから薄々感ずいていた。それが塔矢アキラのせいであることも、長年の付き合いでなんとなく理解していた。
普通ならなんでも気兼ねなくお互いの中にズカズカ入り込んでゆくような加賀と筒井だったが、このことに関しては、なぜか聞きあぐねていた。
「塔矢アキラってさぁ」
決意の果てに口にした言葉に加賀のこめかみがぴくりと動いた。
「・・・・・・けっこういい奴だったね。」
後が続かず、小声でそう言うと「まあな・・・。」と、そっけなく加賀が答えた。
体制を崩さない加賀に、筒井は小さくため息をついた。
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