初めての体験 25


(25)
 行洋に揺さぶられている間も、ヒカルは泣きながら「ごめんなさい」を
繰り返した。そんな、ヒカルの怯える様がますます行洋を残酷にした。
泣きながら、ヒカルが達した時、体の中に熱いものを感じた。
 
 行洋が衣服を整えてくれている間も、ヒカルは俯いて、泣きじゃくっていた。
行洋は後悔した。いくら何でもやりすぎたのではないか?・・・と。
最初は軽くお仕置きをするだけのつもりだったのだが・・・。
どうして、ここまでムキになってしまったのだろうか・・・。
 行洋は、ヒックヒックとしゃくり上げているヒカルの背中を優しくさすった。
「すまなかったね・・・。でも、大人を甘く見ると怖い目に遭うってわかったろう。
 もう、二度とこんなまねをしてはいけないよ。」
いつもの穏やかな物言いに、ヒカルはコクンと頷いた。幼い子供のような仕草だった。
 「いい子だ。」
行洋が、愛おしむようにヒカルの頭を撫でた。俯いたヒカルの口元に、
小さな笑みが浮かんでいることには気づかなかった。




 塔矢先生・・・さすが現代の棋聖。引退したとはいえ、未だ王者の貫禄。

 ヒカルがシステム手帳に書き加えたとき、ちょうどアキラが来た。いつもの
碁会所で待ち合わせをしていたのだ。アキラが息を切らせて、ヒカルに言った。
「進藤。昨日はごめん。急に取材が入ってしまって。」
「仕事ならしょうがねぇよ。気にすんなって。」
と、ヒカルがにっこり笑ってアキラに言った。そして、アキラをじっと見つめた。
 「な、何?進藤、急にじっと見つめたりして。」
アキラは赤くなって狼狽えた。ヒカルは大きな目でアキラを見つめながら
「塔矢って、塔矢先生によく似てんなぁ。」
と、感心するように言った。
「え?そうかな?ボクはお母さん似だって、よく言われるけど・・・。」
アキラは面食らって、まじまじとヒカルを見返した。『全く・・・進藤は
唐突だな』と思った。
「外見の話しじゃねぇよ。性格の話し。碁の打ち方とか・・・さ。」
ヒカルはうっとりとアキラを見つめ続ける。
「だとしたら、嬉しいな。ボクはお父さんが目標なんだ。」
アキラが微笑んだ。
「きっと塔矢先生みたいになるよ。楽しみだな。ホント!」
ヒカルは心底嬉しそうに言った。

<終>



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