Linkage 25 - 26
(25)
薬の小瓶を冷蔵庫にしまい、グラスとスプーンを片付けた緒方が、アキラの
様子を確認するため部屋に戻った頃には、既にアキラは穏やかな寝息を立てていた。
「そう長くは眠れんだろうが、せいぜいいい夢を……アキラ君」
情事の最中とは打って変わり、幼少時とそう変わらないあどけない表情で眠る
アキラの顔を覗き込むと、緒方は額を覆う前髪を掻き上げて、囁きながら静かに
唇を寄せる。
そして、僅かにずれた羽布団を直してやると、サイドテーブル上のライトを消し、
再び部屋を後にした。
浴室で、緒方は壁に両手をついて下を向きながら、激しく降り注ぐシャワーの
湯を浴び続けた。
アキラが爪を立てた背中に、微かに湯が染みる。
「……つまりは、オレが追い込んだことになるのか……?」
降り注ぐ湯の音にかき消されそうな低い小声でそう呟くと、緒方は何事か
考え込むようにゆっくり顔を上げ、目の前の壁を睨みつけた。
(26)
「……オイ、緒方じゃないか?」
新宿の大型書店で洋書を手に立っていた緒方は、そう呼びかける男の声に振り返った。
「……!?……」
記憶を辿ってはみたものの、よれよれのステンカラーコートを着た中肉中背の声の主に
見覚えはない。
「まいったな……、すっかり忘れてるんじゃないか?オレだよ!中学の同級生だった小野だよ!!」
しばらく考え込んでいた緒方だったが、ようやく「……ああそうか……」とさしたる感慨も
なさげに呟き、手にしていた洋書を棚に戻した。
「確か……出席番号がオレの次だったな……」
あまりにも素っ気ない反応に、オーバーアクション気味にガクッと肩を落とした男は、
苦笑しながら緒方に近付くと、緒方の仕立てのいいトレンチコート越しに肩を軽く叩いた。
「随分なご挨拶じゃないか……。活躍ぶりは色々聞いてるぞ、緒方セ・ン・セ・イ!」
男はそう言いながら、おどけたように笑う。
「先生か……フン、なにが先生だか……」
呆れたように男を睨み、緒方は続けた。
「……で、こんなところでオマエはなにをしてるんだ?」
男は緩んでいた表情を多少引き締めると、棚に並んだ洋書を読む気もないのに取り上げ、
パラパラと捲り始めた。
「オレは高校で化学を教えていてね……。冬休みに入って、ようやく一息ついたところさ。
今日は久々に都心をブラブラしようと思ってね」
緒方は一瞬信じられないといった表情で男を見ると、肩をすくめた。
「なんだ……オマエも先生じゃないか。一体どんな狡猾な手段を使って教師になったんだ?
オレがオマエに関して覚えているのは、出席番号のことと、毎回テスト前にオレにノートを
借りに来たことくらいのものだがな……」
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