裏階段 アキラ編 25 - 26
(25)
「多分アキラくんが睨んでいたのは、君じゃなくてオレだろう。なんせ…」
前は違う女性を連れていたから、という言葉を言いかけて飲み込み、
「リーグ戦のさなかだからね。緊張感が足りないとでも思ったのさ。」と濁した。
子供なりに潔癖さが芽生える時期である。異性に対する興味が出て来る一方で、
そういうものを嫌悪する感情も子供によっては強く出て来る。
大人同士が交わすその手の会話を耳にして理解出来る年頃だし、アキラは頭の良い子だった。
オレに関するその手のあまり良くない話も少なからず耳にしているだろう。
「…そういうのじゃない気がした。」
彼女は納得しなかった。
今にして思えば女が持つ勘とはなかなか鋭いものだと感心できる。
せいぜい幼い心なりの独占欲だろう、と最初のうちは軽くそう思っていた。
物語でよくあるように、子供は常に自分に寄り添い、無条件に敵や怪物から自分を守ってくれる
強い味方に憧れる。それは従順な飼い犬であったり、異世界の巨大生物だったりする。
両親の愛情とはまた違うものだ。
その味方が自分以外に忠誠を誓う対象を持つ事は許されない。
ある意味それだけアキラが孤独を抱えている証拠とも言え、同情する気にもなった。
自分にしてみればアキラを裏切るつもりは毛頭無かった。
突然オレのマンションにアキラが訪ねて来たのはそれから数日してからだった。
(26)
ホテルのバスローブを羽織ってバスルームから出てみると、ベッドの上にアキラの姿が見当たらない。
部屋の中へ進み出ると、ドアの影にいたアキラが背後から抱き着いてきた。
アキラもバスローブを着ていた。
そのアキラの方に向き直り、肩を抱いて唇を重ねてやる。そのままベッドに押し倒し、
両手首を押さえ込んで激しく彼の唇を吸い、舌を差し入れて口内を探り彼の舌を強く舐めとってやる。
もう二度とオレに抱かれたいと思わぬように容赦のない行為を繰り返した事があった。
その予告のキスだ。
それを感じ取ったのか、微かにアキラの体が震えていた。
それでもこちらの舌の動きに合わせて自ら舌を絡めてくる。
どんな仕打ちを与えても彼はオレから離れようとしなかった。離れてくれなかった。
何度でも、夜を一緒に過ごす事を望んだ。
唇を離してアキラの顔を見つめた。挑発するような笑みは消えて、ただ必死に何かを訴えるように
アキラもこちらを見つめ返してきていた。
「…何が言いたいんだ?」
手首を離してアキラの顎を持ち上げると、アキラの唇が言葉を綴ろうと動きかけた。
だがそれを押しとどめるように唇を結び、目を閉じて首を横に振る。
彼が考えている事が読み取れず、無性に苛立った。
荒々しくバスローブを剥ぎ取ってうつ伏せにした。
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