誘惑 第三部 25 - 26
(25)
「おまえのパジャマ、借りるぜ?」
言いながら引き出しから引っ張り出したパジャマを着る。普段はジャージやTシャツで寝てるので何
だかヘンな気分だった。塔矢のパジャマ。塔矢の匂いがする。
それから、ベッドに潜り込むと、アキラが抱きついて頬にキスしてきた。眩暈がするほど幸福だと感じ
た。このまま二人で抱き合ったまま朝まで眠っていられるなんて。うっとりと夢見心地になったヒカル
から、アキラの身体が離れる。
怪訝な顔つきでアキラを見るヒカルに、アキラが言う。
「ねえ、進藤、パジャマ脱いでよ。」
「…ん?」
「だって折角キミがここにいるのに、キミが感じられない。」
横になったまま、ヒカルをじっと見つめて、続ける。
「キミを一番近くに感じていたいんだ。服なんか邪魔だよ。」
「んー…」
それもそうかも、と思ってヒカルは身体を起こし、パジャマを脱いで下着一枚でアキラに寄り添おうと
した。が、それでもまだアキラは足らずに文句を言った。
「全部。」
何を言うんだ、こいつは、と、ムッとした顔でヒカルはアキラを見た。
「じゃあ、おまえは?」
「ボクのも脱がせて。」
甘えたような声でアキラが言う。
「おまえなあ…」
「着せたのはキミだろ。ホラ、」
そう言って両手を差し伸べる。
ボタンを一つ一つ外して行くと、何だかヘンな気分になってくる。
ましてや下も全部脱がせろなんて、オレにも全部脱げなんて、どういうつもりだ、こいつは。
何となく目をそらせながら服を脱がせていくヒカルを見て、アキラはクスクスと笑った。
(26)
皮膚の表面は少し冷たくて、触れた瞬間にはヒヤッとするけれど、ずっと触れ合っていると、
その下の体温が感じられて、暖かいを通り越して熱いくらいだ。その熱が伝わって、こっちま
で熱くなってくる気がする。
だがその熱に別のものが混ざり始めて、ヒカルが戸惑いがちに、小声でアキラを咎める。
「ちょ、ちょっと、塔矢…」
「なに?」
「オレ、眠いんだけど…」
「そう?」
「やめろよ…おまえ…」
「いやだね。」
「もう寝るんじゃなかったのか?」
「誰がそんな事言った?」
「や…めろって…塔矢…!」
「やだ。やめない。」
「おまえ、いい加減にしろよ、動けないとか言ってたくせに、ウソだったのかよ?」
「ホントだよ。ボクん中で元気なのはここだけ。」
思わず身を起こしかけたヒカルをアキラはそのまま抱き寄せる。
「だって今日はまだキミの中に入ってない。まだキミを感じたりないんだ。」
「やっ…めろ、ってばぁ…」
そう言いながらも、ヒカルの中をかき回すアキラの指に、ヒカルは自分自身も熱くなってきて
いるのを感じていた。
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