Pastorale 25 - 27
(25)
背中に当たる木がゴリゴリと痛いし、片足をすくわれて足元は不安定な上に、右から吹いてたか
と思う風は次の瞬間には左から強く吹き付けるし、オレはもう塔矢にしがみ付くしかできない。
それでも稲妻が光るたびにオレがビクッと身を竦ませてしまうと、塔矢はそんなオレを責めるよう
に乱暴に動く。
「こ…っの、乱暴、なんだ、よ、オマエは、この、サド野郎…っ…」
「キミがつまらない事に気をとられてるからだろ。」
塔矢はぐいっとオレの顎を掴んで顔をあげさせ、鋭い目でオレを睨むように見ながら言う。
「ボクより雷に気をとられるなんて許せないね。
他のものなんか見るな。気にするな。ボクだけを見ろ。ボクに集中しろ。」
「だったら、」
と、オレも負けじとアイツを見て笑ってやる。
「もっとオレを熱くさせろよ。雷なんか、忘れちまうくらい、夢中にさせろよ。」
そう言って塔矢の首根っこにしがみ付いてキスを強請る。
オレの中で暴れるアイツに対抗するようにアイツの口ん中に乱暴に入り込むとすかさずアイツの
舌がオレに絡み付いてくる。
塔矢の手がオレを擦りあげながら、強く突き上げられると、オレの目の裏に白い閃光が走る。
オレの全身は塔矢に揺さぶられ、塔矢が動くたびに、塔矢の髪がオレの顔を打ち付ける。
嵐なんか、もう、感じなくなる。雷の音なんか聞こえなくなる。
そして大粒の雨よりも、吹き荒れる風よりも、天地を切り裂く雷よりも、もっともっと激しい塔矢
だけが、オレの感じる全てになった。
(26)
鳥の声が聞こえる。
風がさやさやと吹いて、あたたかく柔らかい光があたっているのを感じる。
「進藤?」
優しい声が降ってくる。
柔らかな唇が目蓋にそっと触れるのを、ヒカルは感じた。
目を閉じたままアキラの顔を掴まえて、頬に触れようとしていた唇に強引にキスした。
その唇の上でアキラが小さく笑ってるのがわかって、ヒカルは、コラ、ともっと深く唇を重ねた。
いつもならさらさらと指を滑る髪が、湿ってて指に絡まる。
そうか、さっきまで雨が降ってたんだもんな。
思い出してヒカルは目を開けた。
嵐はやってきたときと同じように急速に去って行ったようだった。
木漏れ日がキラキラとまぶしい。
さっきまであれほど乱暴だった空気は今は柔らかく優しい風を送ってくる。空はあんなに真っ黒
だったのに、もうすっかり晴れて青く、明るい日の光がふりそそいでいる。それでも、まださっき
の嵐はどこかで雨を降らせているのかもしれない。空の端の方には黒い雲が残っていた。
ヒカルは手を伸ばしてアキラの顔を引き寄せ、もう一度キスしながら、ぎゅっと抱きしめた。
空を見上げると、木の葉から零れ落ちる水滴に日の光がキラッと輝いた。
雨に洗われてつやつやに光る葉っぱの緑も、空の青さも、雲の白さも、なんて綺麗なんだろう。
視界に写る雨上がりの空を見上げてヒカルは思った。
(27)
何もかもが本当に綺麗だ。
でも、一番綺麗なのは。
オレは目線を戻して、目の前にいる世界中で一番綺麗で一番大好きなオレの恋人の顔をじっと
見つめる。
顔にかかる少し湿った髪を払って指先で顔の輪郭を辿ると、塔矢は本当に綺麗に笑った。
今オレの前には塔矢がいて、この綺麗な空気の中に一緒にいて、オレと同じように綺麗な世界を
感じていると思うと本当に嬉しくなる。つまんない意地の張り合いなんかどうでも良くなる。
今日、ここにこうやっておまえと来れて、本当に良かったよ。
大好きだよ、塔矢。
そんな思いを込めてキスをする。
そうすると、うん、ボクもだよ、と塔矢のキスが返ってくる。
そんなキスを繰り返すうちに、だんだんそれは深くなってくる。
もっともっと塔矢を感じたくなる。塔矢の全部が欲しくなる。
抱き合いながらごろっと転がって、塔矢の身体を下にして、オレの手は塔矢のシャツのボタンを外し、
塔矢の肌を晒していく。
草の緑は、塔矢の白い肌になんて映えるんだろう。
そうやってうっとりと塔矢を見ていたら、塔矢はクスッと笑って手を伸ばし、オレのTシャツをまくりあげ
た。オレは塔矢の手がオレの服を脱がせていくのに任せ、自分は塔矢の服を脱がせていく。
そうしてお互いにハダカになって、オレは抱き慣れた塔矢の体をぎゅっと抱きしめる。
こんな昼日中、しかも外で、ハダカになって抱き合ってるなんて、オレたちってケダモノかも。
そんな事を囁くと、いいじゃないか、ケダモノだって、と塔矢が返す。
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