光彩 25 - 27
(25)
涙を止めようとした。
泣き声を出さないように、息を止めた。
それでも、のどの奥から声が漏れる。
緒方が、温めたミルクに砂糖とブランデーを入れて、ヒカルに出してくれた。
砂糖が多めに入ったミルクは甘く、ヒカルの心をいやしてくれるようだった。
緒方がそっとヒカルを抱き寄せた。ひどく優しい動作だった。
瞼に唇があたっている。
それから、涙の後を辿るように唇が触れては離れた。
緒方の指がヒカルの髪を梳いた。
温かい指先がヒカルの額や頬にふれる。
「もう泣くな・・・。進藤。」
―泣いちゃだめですよ・・・ヒカル―
落ち着いた低い声に、静かな優しい声が重なった。
緒方の胸にもたれかかった。
緒方の心臓の音が聞こえる。気持ちが落ち着いてくる。
いつしかヒカルは、緒方の腕の中で眠ってしまった。
夢を見ていた。
佐為がいた。
ヒカルは遠くから佐為の姿を見つめている。
佐為は碁盤の前にきちんと正座して、自分の指で碁石をおいていく。
優雅に石を操る佐為の指先に、ヒカルはみとれた。
佐為がヒカルの方を見た。
唇が動く。
声はヒカルには届かなかった。
(26)
「早かったな。」
アキラは返事をせず、緒方とも目をあわせようとしなかった。
いすを勧められたが、座る気はなかった。
はっきり言って、この家には二度と足を踏み入れたくなかったのだ。
だが、ヒカルのことで話があると言われたら、来ないわけにはいかなかった。
アキラは、素っ気なく何の用か尋ねた。
緒方が冷蔵庫からビールの缶を二つ取り出した。
一つを自分に差し出したが、アキラは無視した。
緒方は肩をすくめ、テーブルの上にそれを置いた。
緒方が缶ビールのプルを押し上げた。小気味のよい音が響く。
緒方は薄ら笑いを浮かべて言った。ビールの泡がはじける音がする。
「進藤泣いてたぜ。塔矢があってくれないって。」
アキラは緒方を睨み付けた。
目が怒りに燃えている。
いったい誰のせいだと思っているのか?と言いたげに・・・。
緒方一人の責任ではなかったが、それを改めて認めるのはつらい。
「どうしてあってやらないんだ?可哀想じゃないか。」
ちっとも哀れんでいないような口調に腹が立つ。
アキラは唇をかみしめた。イライラする。
「あんまり可哀想なんでつい慰めたくなってしまったよ・・・」
「抱きしめて、キスをして。それから・・・。」
そこまで聞いて頭に血が上った。
アキラは緒方に殴りかかった。
(27)
片手で簡単にあしらわれる。
腕を捻りあげられた。アキラが痛みに顔をしかめる。
緒方はビールの缶を床に投げ捨て、そのままアキラを抱き込んだ。
暴れるアキラを力で制し、無理矢理、唇を塞いだ。
「進藤に言わないのか?俺たちの関係を」
「言えるわけないでしょう!こんなこと!!」
アキラは叫んだ。悔しい。力では敵わない。
アキラの目に涙がにじんだ。
「そんなに進藤が大事なのか・・・。」
緒方の静かな声が耳の中に落ちてきた。
緒方はアキラの唇を再び塞いできた。
体を動かそうとしたが一ミリも動かせない。
その時、隣の寝室の方から物音がした。
まさか・・・まさか・・・!
目だけを移動させる。
ヒカルが・・・いた。
緒方がようやくアキラを離した。
!!最悪だ・・・。
地面が崩れていくような気がした。
緒方さんに、はめられた・・・!
怒りが爆発した。
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