日記 250 - 252
(250)
ぬれた髪でベッドにダイブ。
塔矢に怒られるかと思ったけど、アイツは笑って見てる。
今日のアイツはキゲンがいい。
オレは逆におもしろくない。
今日二人で花火をした。
打ち上げいっぱい買っておいたし、塔矢にもらった花火も持って公園に行った。
普通の花火もして、打ち上げ花火もして、それからトリに塔矢の花火をした。
パラシュートつけて落ちてきたカエルの人形は黄色だった。
黄色はオレのラッキーカラーだ。
そう言ったら、塔矢がオレのカエルを欲しいと言った。
…………いいけどさ…オマエ…コレ、オレにくれたんじゃねえの?
そしたら、アイツはオレの顔の横にカエルを並べて、
「キミにそっくりだ」
と、言いやがった。
ガ―――――――――――――――――――――――――――ン!!!
ショックだ………
「色といい、目の大きなところといい…兄弟みたい…」
もうイイ!ダマレ!
「カワイイってほめているんだよ?」
絶対ほめ言葉じゃネエ!
塔矢がかき氷が出来たって言ってる………食べ物でつれると思っているところがムカつく………
しょうがネエから許してやる……
(251)
濡れた髪にタオルを引っかけて、ヒカルがベッドに倒れ込むのを横目で見ていた。
ヒカルはちらりとアキラの方を見て、様子を伺っている。ちょっとむくれたような不機嫌な
顔つきは、本人の思惑とかけ離れてヒカルを妙に可愛く見せた。
アキラは何も言わずに立ち上がる。前を通ったとき、ヒカルがベッドの脇に置いた自分の
荷物を引っ張り寄せて、中からノートを取り出すのが見えた。
「日記書くの?」
「うるせえ…!」
拗ねた口調で、そっぽを向いた。ご機嫌斜めな原因はわかっている。アキラは笑って部屋を出た。
「オマエさあ…もうそろそろアレ外せば?」
ヒカルがイチゴのシロップのかかったかき氷を口に運びながら、言った。
「アレ?」
問い返したアキラに、彼は無言で指を指した。指された方角から、微かに硬質の澄んだ音色が聞こえる。
「もう、九月もすぎてるんだぜ…?」
かき氷を頬張りながら、風鈴を気にするヒカルがなんだか可笑しい。
「やだよ。キミと夏のイベントを一通りすませるまで外さないよ。」
「ガンコだな!金魚すくいなんか、来年までもうねえぞ。」
一年中つるす気かよ―と、ヒカルが呆れた声を出した。
「いいよ。それまでずっとつるしておくから……」
それに対する返事はなかった。もっとくってかかってくるかと身構えていたのに、拍子抜けだ。
そう思いながら、ヒカルを見ると、彼は今にも泣きそうな顔をして、氷の器にじっと視線を
注いでいた。
「………ありがとう…」
実際は器を見ていたのではなかったのだろう。そうやっていないと、泣いてしまうから、
ムリに意識を集中させていたのだ。
急にしんみりしてしまった空気を振り払うように、ヒカルが明るく笑った。
「金魚とったら、やるからな!」
「…………うん…楽しみにしておくよ…」
アキラは、ヒカルのために二杯目の氷にレモンのシロップをかけた
(252)
夏服と間服とを入れ替えようと、アキラはクローゼットの中から洋服を引っ張り出した。
自分で洗濯するもの、クリーニングに出すものとをてきぱきとより分け、ポケットの中を探る。
何も入っていないのを確かめ、袋の中へ詰めていった。そうしてまた次へと手を伸ばす。
「…あれ……?」
ジャケットの内ポケットに何か入っていた。カサカサと軽い音を立てながら、それが引っ張り出された。
「あ……」
アキラはそれを手にとって、愛おしげに撫でた。
ヒカルからの手紙をもらったことをすっかり忘れていた。手紙を読む前に、ヒカル本人が
直接自分のところに来てくれたので、それどころではなくなってしまっていたのだ。
――読んでみようか?
何が書いてあったのか気になる。あの時はもしも別れを示唆する内容だったら、ヒカルのところへ
怒鳴り込んでやろうとも思ったが、今なら何が書いてあっても冷静でいられる。ヒカルは
ちゃんと自分の腕の中にいるのだから………。
好奇心にかられて、封筒の底に鋏をあてた。そして、慎重に封を切ると、中から、薄い便せんを
とりだした。便せんだと思っていたものは、どうやらノートを切り取ったものらしい。それがヒカルが大切にしているノートであることに、アキラはすぐに気が付いた。
折りたたまれた紙を丁寧に開いていく。すこし緊張しているのか、手が震えた。彼から
初めて受け取った手紙には、いったい何が書いてあったのだろうか…
書いてあったのは、たった一言だけ。それも、隅の方に小さく書かれていた。その言葉を
見つけた瞬間、アキラの口元に優しい笑みが浮かんだ。
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