アキラとヒカル−湯煙旅情編− 26


(26)
ワイドショーの画面に見入る加賀の目に、繰り返し、己の腕の中で目覚めたアキラが蘇ってくる。
はにかむように微笑んだ天使のような笑顔。
朝の光が差し込んだ明るい部屋からは、夕べの情事の面影は払拭されていた。
熱い瞳でしがみ付いてきたアキラも、腕の中で狂おしく果てたアキラも、すべてが幻だったような気がする。
「まぼろし・・・かぁ。」
両手を見つめ、うつろにつぶやく加賀を、筒井は複雑な面持ちで見つめる。
――ありがとう。
露天風呂でつぶやいたアキラは、なにかをふっきったように清々しかった。
加賀は思う。あいつは、これからも笑っていけるんだろうか。
だが、例え、アキラの笑顔が曇るような事があっても、アキラが傍にいて欲しいと望む相手は、もはや自分ではない。
幼いあの日に、自分はその権利を手放してしまった。
あとはただ、見守るしかない。
幼いアキラの幻影が、加賀の前を横切り、手を振りながら遠ざかっていったような気がした。
「筒井よ。」
ワイドショーの画面を見ながら、加賀がポツリと言う。
「なに?」
できるだけ普通に、筒井が答える。
「釣りでも行くか?」
そこには、いつもの飄々とした加賀の笑顔があった。
「ああ、いいね。」
筒井も笑顔で答える。
今日も、川面にはキラキラと太陽が乱反射し、魚達が背を翻して泳いでいるのだろう。
「逃がした魚はデカイってか・・・。」
「え?なに?」
「なんでもねえよ。」
言いながら加賀は、今日3本目の煙草に火をつけた。

                         終。



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