裏階段 三谷編 26


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こちらも息をつき、汗が伝わり落ちる前髪を掻きあげて上体を起こし、暫くの間彼を見下ろしていた。
動かなくなった彼の中で動き続けた。
長くかかった道のりを終えて衣服を脱ぎ、彼を抱き上げてバスルームに入る。
柔らかな水量で彼の体を洗い流す。
彼は一瞬目を開けたが眠そうにまた閉じた。
彼にはこうなることが、自分の身に何が与えられるか分かっていたはずである。
碁会所のあるビルを歩道から見上げ、偶然を装って進藤に会える事をただ期待していた
彼を見かけて声をかけた。
「時間はあるか」と尋ねるとただ黙って頷いた。
車の助手席に座る時、一瞬躊躇があったようにも思えた。無理強いはするつもりはなかった。
彼は暫くこちらを睨むように見つめていたが小さくため息をつくと音もなくシートに滑り込んだ。
車が都心を離れ、ビル郡が遠のく間も彼はただ黙って窓の外を見つめていた。
こうして一時的に大人の男の所有物となって運ばれる事を何度か経験している様子だった。
そうして山あいの、ビジネスにもリゾートにも利用されているこのホテルに入った。
ツインの部屋をとる。だが泊まるのは自分一人だけだ。表向きは。
連れ合いは裏階段でこの部屋に入る。ホテル側の人間の目に触れる事なく。
もしオレがここで彼を殺して裏階段で車に運んだとしても、彼がオレを殺して裏階段で逃げたとしても、
ホテル側の人間は彼の存在は知らなかった事として語るだけだ。そういう暗黙のルールの場所だった。
たいした娯楽施設も観光名所も持たない場所で客を得るとはそういう話だ。
彼はどんな気持ちで階段を上がり、そして降りていくのだろう。



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