平安幻想異聞録-異聞- 番外 26


(26)
「殺してはおらんだろうな?」
気は失っていないものの、空ろに何も映さないヒカルの瞳を
菅原がのぞき込んだ。
菅原のその手には、紫苑の花が5.6本にぎられていた。
ヒカルを手下の男達に投げ与えたあと、だいたいの事が終わるまで、
座間と菅原は竹林の外で、月を愛でつつ、秋の野花をつんでいたのだ。
ヒカルの心の臓の辺りに手を当て、生きていることを確認すると、
菅原は手振りで夜盗風の男達を散らし、その場から去らせた。
「さてもさても、ひどいな有り様になったことよのう」
座間が、その口の端に笑みを乗せながら、足で、倒れ伏すヒカルの体を
こづいた。
「まことに…」
そう言って、菅原がヒカルの上で、手に持っていた紫苑の花の
花冠を揉みしだく。
その薄ふじ色の花びらが千切れて散って
精液と血にまみれたヒカルの体をいろどった。
「『落花無残』とは、まさにこのことですなぁ」
「おうおう、風雅じゃ、風雅じゃぞ」
座間が扇を口に当てて楽しそうに笑った。
「さて、顕忠、この検非違使をどうしたものか」
「恐れながら、座間様。検非違使風情のひとりやふたり、
 我らが気にする事ではありませぬ。このまま捨て置かれるがよいでしょう。
 このまま息耐えて野犬の餌になるもよし……」



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