金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 26
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そうして、金魚はアキラの元に来ることになった。生まれて初めて手に入れた恋しい金魚。
まさに一目惚れといってもよかった。
「水槽も買わなくてはね。」
母がにっこり笑って、指をさす。指した先には、水槽が並べられていた。簡単なプラスチックの
ものから、緒方さん家にあるようなキャビネットが付いている大きな水槽まで所狭しと
並んでいた。
「どれがいいかしらねえ…」
母同様アキラも迷っていた。何せ、金魚に限らず動物を飼うのは生まれて初めてなのだ。
きょろきょろと廻らせた視線の先に、丸いガラスの器が見えた。
「お母さん、あれがいい。あれにする。」
金魚の尾っぽとお揃いのヒラヒラの縁取りが付いた丸い金魚鉢をアキラは選んだ。
金魚と金魚鉢、それから水草と敷石、餌。アキラは小さな両手にそれらを抱えて、よたよた歩いた。
「アキラさん。重いでしょう?お母さんが持ってあげましょうか?」
と言うありがたい母の言葉をアキラは頑なに拒んだ。母の両手も買い物した荷物でいっぱいだ。
それにこれだけは、どうしても自分で持ちたい。
「金魚が大きくなったら、もっと大きな水槽に替えましょうね。」
「うん。」
お店のお兄さんは、金魚鉢より大きな水槽を勧めてくれた。小さな金魚鉢では窮屈で金魚が
死んでしまうのだそうだ。
―――――それなら、金魚鉢なんか置かなきゃいいのに…
ヒラヒラの金魚鉢の中で、アキラの小さな赤い金魚が泳ぐところを想像して、どうしても
欲しくなってしまったのだ。
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