初めての体験+Aside 26 - 27
(26)
ヒカルは「あっ」と、呟いて黙ってしまった。自分も食べるということをすっかり忘れて
いたらしい。
「………中辛にしとく…」
社のヒカルへの恋心は、一気に上昇した。
アキラの家に戻ってから、社はヒカルのご指名でありがたくも助手を仰せつかった。
ヒカルの危なっかしい包丁さばきに、ハラハラしながらも、並んで野菜の皮をむく。
「うぅ〜目が痛ぇよ。」
タマネギを刻んでいたヒカルが、涙をポロポロこぼしながら目をこすった。
「進藤、こすったらアカン。オレがヤルから…」
「…うん…ゴメン…」
軽快にタマネギを刻む社の手元をヒカルが覗き込んだ。
「社、うまいなぁ…」
と、感心する。社は顔を赤らめた。実はこういうことは嫌いではない。簡単な料理なら
自分で作れる。でも、どうせなら、やっぱりヒカルに作って欲しい。ヒカルの作った
カレーが食べたいのだ。それに、ヒカルではなく社が作ったと知ったら、アキラが激怒
するのではないだろうか?それも表情には決して現さずに…。
「オレ、ジャガイモむくね。」
社だけにやらせて悪いと思ったのか、ヒカルがジャガイモに手を伸ばした。辿々しい手つきで
ジャガイモの皮を剥いていく。そうだ。たとえ、ジャガイモを剥いた皮が分厚すぎようと、
ニンジンが生煮えだろうと、ヒカルの作ったものならそれだけで価値がある。
そして、カレーは完成した。
(27)
「あ!カレーじゃん!今日、カレーはヤダって言ったのに…」
文句を言う倉田に、ヒカルは「べー」と、舌を出した。可愛い。自分もアカンベをされて
みたい。
倉田がブツブツと言いながら、カレーを口に入れた瞬間、「くぁ!」と一声叫んで昏倒した。
ヒカルは大きな目を見開いて、キョトンとしている。
「…どうしたの?倉田さん?」
「進藤のカレーがおいしいから、感激したんだよ。」
アキラが怖いくらい優しい笑顔で答えた。だが、社は知っていた。倉田が倒れたその理由を…。
カレーが完成し、ヒカルが食卓を整えに行くのと入れ替わりにアキラがやって来た。
何かされるのではとビクつく社に、にこやかにアキラは言った。
「社、ボクが盛りつけをするよ。」
逆らうのも怖いのでアキラの好きなようにさせることにした。三枚の皿には普通にカレーを
盛りつけた。それより一回り大きな皿に白飯を大盛りにし、その上にタバスコを一瓶全部
振り掛けた。そして、その上から、カレーをかけてタバスコの色をごまかしたのだ。
絶句する社に、アキラはニコリと微笑みかけた。その瞬間、社はアキラの共犯者になった。
『ちゃう…!好きでなったんやない!そやけど…逆らったらオレがやられる…!』
社の胸中も知らず、アキラは涼しい顔で食事を続けていた。
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