sai包囲網・中一の夏編 26 - 28


(26)
「あぁ、服はね」
 今、進藤が身につけているものは、先程まで胸元までたくし上げられ
ていたTシャツと、片方だけ残っている靴下だけだ。
「saiとの対局が終わったら返してあげるよ。キミはそのまま逃げ出
しそうだからね」
「対局?saiと?」
「何でも言う通りにする。saiと打たせてくれると言ったのを忘れた
のかい?」
「だって、それは・・・」
「忘れたって言うなら、思い出させてあげようか?」
 ちらっと進藤の下肢に視線を向けると、薄い肩が竦み上がり、慌てて
頭が左右に振られた。
「忘れてない!忘れてないよ!」
「なら、いいよ」
 進藤の服を人質に、テーブルの上に碁盤と碁石をセットする。
「手が痺れていて打てないだろう?今日は、ボクが代わりに石を置くよ」
 渋々という感じに、頷く進藤。そう、約束は約束だからね。何として
も守って貰うよ。
「ボクが握るよ。どっち?」
 おそらくsaiと相談しているのだろう。進藤が一瞬、斜め上を仰ぎ、
小さな声で答えた。
「・・・奇数」
「二、四、六・・・九か、キミが、いや、saiの先番だ」
 お願いしますの後、予想通り返って来た初手は、
「右上スミ小目」


(27)
「次は?」
「3の、二間ビラキ」
 時折涙を拭いながら人形のように石を置く場所を示す進藤を哀れだと
思ったけれど、それ以上に身の内に感じる快感に、ボクは酔った。
 大事な尸童(よりまし)を好きなように犯された怒りからか、sai
の一手一手が容赦がなかった。結果は、ボクの中押し負け。ネット碁で
対戦したときよりも更に厚く高い壁となってボクの手は封じ込められた。
「進藤」
 心躍る対局に気持ちが昂揚するのを押さえられないボクとは反対に、
進藤はどこかうつろな瞳で俯いたままだ。今の彼には盤上の石も見えて
いないかのようだ。
 終局を向かえてもなお燻り続ける熱をどうすればいいか。その答えは
簡単だった。
 ボクは進藤にゆっくりと近づき、その小さな身体をもう一度ソファー
の上に抱き倒した。


(28)
 それから、毎日のように、進藤はボクのところにやって来る。碁の神
様とも言えるsaiとして碁を打ち、そして、生身の進藤ヒカルとして
ボクに抱かれるために。
 saiとの対局は精神の、そして、進藤とのセックスは身体の快感を
与えてくれる。どちらか片方が欠けても、これほどの快楽を味合うこと
はできない。ボクにはsaiだけではなく、進藤ヒカルも必要なんだ。
「塔矢」
 ある日、ぽつりと進藤が言った。
「お前、オレの幻影なんか追ってると、本当のオレにいつか足もと掬わ
れるぞ・・・」
「キミが?いつかといわず、今から打とうか?」
 そう答えながらも、ボクはそのいつかを待つために、進藤をこの腕に
捕らえ続けているのかも知れない・・・。


End.



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