初めての体験 門脇
(26)
ヒカルは壇上にあがる門脇を見た。ヒカルは彼を知っていた。院生だった頃、
門脇に頼まれて、対局したことがあった。そこそこ強い相手だと思って、佐為に打たせたのだ。
だが、ヒカルの予想に反して、門脇はかなり強かった。もし、佐為ではなく、自分が
打っていたら、果たして勝てたかどうか。いや、きっと、負けていたであろう。
ヒカルは、門脇が元学生三冠であったとは、知らなかった。
「プロになるくらい強かったんだ・・・。」
通りすがりに打っただけの相手に、ヒカルは興味を持った。
「おじさん!」
「おじさんだとぉ?」
いきなり背後から声をかけられ、門脇が顔を引きつらせながら、振り返った。
目の前に小柄な少年が立っていた。大きな瞳をくりくりさせて、門脇を笑って見ていた。
「おじさん・・・門脇さん、おめでとう。」
「あ・・・ありがとう。」
門脇は少し、狼狽えた。一年前、この目の前の少年に、こてんぱんにやられた
時のことは、今も鮮やかに記憶に残っている。
その時、自分がいかに甘かったのか思い知った。一念発起し、一から勉強を
やり直した。
「門脇さん、プロになったんだ。道理で強いと思った。」
ヒカルが、無邪気にニコニコと笑った。
「うん・・・。お前・・・君もね。」
門脇は照れながら答えた。去年、新聞でヒカルがプロ試験に合格しているのを見た。
そんな相手を肩慣らしに使おうとしていたとは・・・。と、苦笑した。
しばらく、たわいない世間話をして、少し打ち解けた頃、ヒカルが、門脇に切り出した。
「門脇さん・・・オレ、前に門脇さんのお願いきいてあげたよね?」
「うん?そうだったな。」
「今度はオレの頼みきいてくれないかな?」
門脇はおいおいと思った。普通、こういう場合は逆じゃないのか?合格祝いに
オレの頼みをきいてくれるものだろう。だが、実際ヒカルに頼みをきいて
貰ったのは事実だし・・・。ムキになるのも大人げない。
「だめ?」
ヒカルが、上目遣いで見つめてくる。吸い込まれそうな瞳だった。
門脇は、思わず頷いてしまった。
(27)
「で・・・頼みって何?」
ヒカルは、棋院の対局室に門脇を連れていった。
「人にきかれちゃまずいことなのかい?」
「門脇さん・・・オレと・・・してくれないかな?」
ヒカルが門脇を恥ずかしそうに見た。
「へ・・・?」
門脇は、ヒカルが何を言ったのか一瞬わからなかった。間抜け面で聞き返した。そんな門脇の鼻先へヒカルがチュッとキスをした。はにかんで、
ニコッと笑う姿が恐ろしく可愛かった。
『これは・・・合格祝いってことかな?』門脇はヒカルを抱き込んだ。
門脇がヒカルのジャケットを脱がせ、ネクタイに手をかけた。「あっ」と
ヒカルが呟いた。
「何?」
「門脇さん・・・オレ、ネクタイ結べない・・・」
門脇は吹き出しそうになった。こんな場面でネクタイの心配をするなんて・・・。
クックッと笑いながら、ヒカルのネクタイをほどいた。
「オレが結んでやるよ。」
ヒカルを畳の上に横たえさせると、門脇はヒカルのYシャツのボタンをはずした。
前を開くと、可愛らしく色づいた乳首が現れた。門脇の喉がなる。逸る気持ちを
押さえ、門脇はヒカルの服を一つずつ剥いでいった。Yシャツ一枚残して、
全部脱がした。そのシャツも腕のあたりまで、ずらされている。門脇は
ヒカルをまじまじと改めて見つめ直した。
「あんまり見ないでよ・・・」
ヒカルが恥ずかしそうに言った。自分の体を隠すように横向きになっている。
中途半端にシャツをまとった状態は、かえって門脇の目に扇情的に映った。
門脇は、ヒカルを再び仰向けに直すと、そのままゆっくりと覆い被さった。
(28)
門脇はヒカルにキスをした。舌を差し入れて、絡ませる。そうしながら、
手では胸元をまさぐった。
「あ・・・あん・・・んん」
ヒカルのあえぎ声が、門脇の口に吸い込まれた。
門脇の指が、ヒカルの乳首をいじるたび、ヒカルの体がビクッとふるえた。
「や・・・やぁだ・・・」
ヒカルが体を仰け反らせた。シャツの隙間から、チラチラと薄い紅色の突起が
見え隠れする。門脇はそこを舐めた。歯で軽く突起を噛み、吸い上げる。
「あ・・・ん・・・かど・・・き・・・」
ヒカルが金魚のように、口をパクパクと開けた。ハアハアという吐息が聞こえる。
門脇は、しばらく口と手で乳首をなぶっていたが、やがて、ヒカルの下半身の方へ
手を這わせていった。
「あぁん・・・」
門脇の手の動きにヒカルが反応する。門脇はにんまりと笑った。ますます、
手を早める。ヒカルの呼吸が速くなった。
「ああ────────────!」
堪えきれず、ヒカルは門脇の掌に放ってしまった。
門脇は、ヒカルの右足を自分の肩に掛けさせた。ヒカルのもので濡れた指を
喘いでいるヒカルの後ろにあてがった。そして、開いている方の手をヒカルの
腰の下に回し、体を心持ち、浮かせた。指を少しずつ侵入させた。
「あ!あ・・・あん・・・や・・・やだ・・・」
ヒカルが体を捩る。門脇はかまわず、指を一本ずつ増やしながら、前後にさすった。その刺激にヒカルが再び、立ち上がり始めた。
門脇は指を引き抜くと、自分のものでヒカルを貫いた。
「────────────!」
ヒカルが声にならない悲鳴を上げた。
(29)
頬を紅潮させ、喘いでいるヒカルを揺すりながら、門脇は聞いた。
「なあ・・・何でオレを誘ったの?」
「かどわきさ・・・つよいから・・・オレ・・・」
ヒカルが荒い呼吸の下から、答える。
「強いから?」
「オレ・・・つよいひと・・・すき・・・だから・・・」
自分を負かした少年に強いと言われて、門脇は嬉しかった。
「オレ・・・本当は学生三冠だったんだ・・・お前に負けたけどな・・・」
と、ちょっと寂しげに笑って呟いた。
その呟きがヒカルに聞こえたかどうかはわからなかった。門脇が与える
快感を、ヒカルは必死に追っていた。
二人で授与式の会場に戻ったが、門脇とは入り口で分かれた。
アキラがヒカルを見つけて、駆けてくる。手には賞状を持っていた。
「進藤・・・!どこへ行っていたんだ?」
「ごめん。知ってる人に会って、外で話しをしてたんだ。」
ヒカルがアキラにペコッと頭を下げた。
「知ってる人ってさっきの人?」
アキラが怪訝そうに訊ねた。悪びれずヒカルは答えた。
「うん。元学生三冠だったんだぜ。どーりで強いはずだよ。」
「対局したことがあったんだ?」
「院生の頃、一度ね。」
ふーんとアキラは呟いて、そっとヒカルの手を握った。
「どうしたんだ?塔矢。」
ヒカルがアキラの顔を覗き込んだ。普段のアキラは人目があるところでは、
決してこんなことをしない。黙り込んでいるアキラの手をヒカルはぎゅっと握り返した。
「ごめん・・・。黙って出ていって・・・。帰ったら、二人でお祝いしよう。な?」
俯いているアキラに話しかけた。
「塔矢が、賞状うけとるとこ見れなかったな・・・。ごめん。」
アキラは顔を上げて、照れくさそうに言った。
「進藤・・・。ボクこそ子供みたいに拗ねたりして・・・。」
そして、ヒカルの手を強く握った。
ヒカルは『アキラは本当に可愛い』と思った。その『可愛い』には、もちろん、
色々な意味が含まれているのだが・・・。
ヒカルは、アキラにじゃれつきながら、
門脇・・・元学生三冠!油断大敵!やっぱつえーぜ!
と、手帳に書いておこうと思った。
<終>
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