クローバー公園(仮) 26 - 30
(26)
ラーメンは確かに美味しかったんじゃないかと思うけど、
食べている間ずっと妙な動悸がしていて、正直、味なんてよく覚えていない。
片方の耳に髪をかけて、反対側にわずかに小首を傾げて
少しずつ麺をすする様子だって、いつもと変わらない仕草のはずなのに
なぜか今日は見え方が違う。恥ずかしくて、顔なんかまともに見られやしない。
他の客だって、アキラを気にしてちらちらと見ていた。
あれは絶対、気のせいなんかじゃない。みんな、見てた。
こんな危なっかしい状態で人目に晒したくない。早く連れて帰りたい。
何でいま、どこでもドアもスモールライトもドラえもんも持ってないんだろ。
ちらりと隣を見遣ると、アキラはなにか考え事をしているのか、
俯き気味で腕組みをしつつ、片手は口元にある。
その口元が、手元が、視線を吸い寄せ外させない───
あぁ、駄目だ、ヤバすぎる。なんで今日のコイツはこんな無防備なんだ?
今日のヒカルはやっぱり何かが違う。
ラーメン好きだからって思って誘ったけど、肝心のラーメンを
かまずに飲むようにしてようやっと食べていた。
「おいしい」の一言だって、全然気持ちが入っていなかった。
口に合わなかったのかと思ったけど、今も何か固い表情だし歩調も妙に早い。
いつもアキラの方が歩くのが早く、ヒカルはそれを詰るのに
今日はアキラが小走りにならないと置いていかれそうな程だ。
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歩いて10分もかからない道のりではあったが、
途中すれ違った人たちもみんな、アキラを見ているように思えて
ヒカルは内心ハラハラしていた。
塔矢邸の門が見えた途端、疲労感がどっと押し寄るのを感じたヒカルは、
アキラを押し込むと、玄関で座り込んで、そのまま動けなくなった。
鍵をかけながら、アキラはヒカルの身体を案じた。
「進藤、どうした?」
ヒカルは小刻みに震える体をぎゅっと丸めて、浅い呼吸を忙しなく繰り返している。
「──進藤!?」
アキラは慌ててヒカルに駆け寄ると隣に座り、額に手を当てた。
「すごい熱じゃないか。早く入って横になって、ほら」
ヒカルは顔を上げ、アキラの両腕にすがりついた。目は充血して潤んでいる。
こんなに具合が悪いって分かってたら、外になんか連れて行かなかったのに。
ヒカルは苦しそうに顔を歪めて、目を伏せた。
「立てるか?」
アキラが手を貸そうと腕を取ると、ヒカルは腰を少し浮かせたが、
またすぐアキラの上に正面から崩れ落ち、アキラはヒカルの下敷きになった。
「進藤!……進藤!」
耳元に、ヒカルの苦しそうな息遣いを感じる。
溜息の中で、微かにヒカルはアキラを呼んでいる。
「進藤?大丈…………っ!?」
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「だいじょぶ………、じゃ、ない…」
搾り出すような囁きと同時に、ぶちぶちぶちっという派手な音とともに
アキラのスナップボタンのシャツの前が一気に開かれ、白い肌が露出した。
あっと思う間すらなく、ヒカルの手はアキラのベルトにかかっていた。
抗議の声は、ヒカルの唇に吸われて届かない。
ひと息に下着まで下ろされ、靴も靴下も一緒にむしり取られ
両足首を掴まれ脚を大きく拡げられた。
「進藤?何考えてるんだ!…進藤!!」
それでもヒカルはアキラの声など聞こえない様子で
割り開いた脚の間に身体を入れ、一舐めした指を後門に突き入れた。
「ぅわぁぁっ!やっ……なっ………ああぁっ!」
中を激しくかき回され、たまらずアキラは声を上げた。
ヒカルは指をどんどん増やして、中を拡げながら
アキラ自身を口に含み、先端を舌先でそろそろと刺激する。
その動きにつられて、唇からは喘ぎ声だけがこぼれ続ける中
嫌な予感がアキラの脳裏を駆け巡っている。
それを振り払うように、アキラは必死でヒカルに手を伸ばして
押しのけようとしてみたものの、それはヒカルにとって
やわやわと髪を撫でるだけにしかならなかった。
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ヒカルは、アキラの抗議を比較的素直に受け入れ、身体を離した。
…と思い安堵したアキラは、次のヒカルの行動から逃れるのが遅れた。
両の膝裏を掴まれ、身体を深く折られると、尻にヒカルの素肌が触れ
質量を増し熱を持った肉棒が菊門にあてがわれた。
―――まさか、本当に!?ここでする気なのか?
「……やっ、やだ……っ!進藤!こんな………!」
ヒカルは答える代わりに、勢い良く突き入れた。
「ゃぁぁぁあああああっっ!あっ!あ、あ、ああっ!」
前戯も殆ど無く、短時間で拡げただけの中は恐ろしいほど窮屈で
ヒカルを半分も受け入れることができなかった。
「とうや……、塔矢の中、すげー締めつけてくる……、キツイ…
けどスッゲー気持ちイイ………オレもう、マジでイキそう…」
ヒカルはアキラの両脚を抱え込んで身体を起こし、
浅い位置で容赦なくアキラを穿つと、あっという間に最初の精をアキラの中に放ち
吐き出すだけ吐き出して、着ていたTシャツを脱ぐと、またすぐヒカルは動き始めた。
「やっ、進藤…、ここはヤだ……するなら、中で…、お願いだから………」
ヒカルは動くのをやめた。アキラは心なしか涙を浮かべてヒカルを見上げている。
「…何でだよ……ずっと誘ってたのは、オマエだろ…」
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「誘う?誘うって何だ?ボクは何もしてない」
「じゃぁ何だよ?無防備にいろんなオーラ出しまくって、
オレだけじゃなくて、誰彼かまわず誘いまくってたじゃねーか!」
「え?何だって?そんなことないだろ!そんな事してない!」
「してたって!オマエ、もし今日一人であの店行ってたら
帰ってくる間に5人にはヤられてるよ」
あまりの言い草に、アキラは一瞬言葉を失った。
「オレだって、場所が合ったら即ハメてたよ!
マジで、よくここまで我慢したと思うし……家ん中でくらい、何処だってイイだろ」
ヒカルはアキラの無言を承諾と受け取り、また動き始めた。
なんとか気持ちを立て直して、やっとアキラは口を開いた。
「………それって、外でする気だった、って事…?」
アキラにとって、秘め事を屋外に持ちだすことなどあり得なかった。
今いる玄関だって、屋外の入り口みたいなものだ。鍵を掛けたとはいえ
明かりはついているし、遅い来客があれば、影が映って見られてしまうだろう。
こんなことをするべき場所は、他にあってここではない。
だが、ヒカルは信じられない事を口にした。
「たまには外も良いんじゃねーの?」
「なっ…、そ、そんな事したら、誰かに見られるかもしれないじゃないか?」
「いーじゃん。そしたら見せてやれば。その方がいいかもな?」
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