無題 第1部 26 - 30


(26)
だがいくら問うても答など出てきはしない。自分の中の問いに気を取られていた緒方は、無意識
にアキラを責めるようにその愛撫が乱暴になっていった。
緒方の執拗な刺激に十分に敏感になっていた乳首に、緒方は強く歯を立てた。アキラの悲鳴が
あがる。だがその悲鳴は緒方を加速させるだけだ。緒方はアキラの髪を掴んで顔を上げさせ、
荒々しく口腔内を蹂躪する。空いた手と脚を使って強引に下肢を押し開き、アキラの中心を握り、
ツメをたて、乱暴にしごき上げる。その強引な攻めにアキラが上げる悲鳴も、緒方の耳には届か
ない。押さえつけられた体は自分では動かす事もできない。手首の縛めがきつく食い込み、更に
その上に自分の体重と、緒方の体重がかけられている。悲鳴をあげようにも、舌はからみとられ
呼吸さえも満足にできない。ただ、苦痛に耐えながら嵐が通り過ぎるのを待つ事しか、アキラに
はできなかった。
だが激しい嵐のようなオーケストラの咆哮が次第に収まり、低音がまたゆっくりとリズムを刻み
始めた時、緒方はやっと我に返った。
緒方の下には苦痛の涙を止めどなく流し、眉をしかめ、歯を食いしばって、緒方に堪えている
アキラがいた。緒方は、自分が我を失ってアキラを苦しめていた事に衝撃を受けた。
自分がこんなにものめり込んでしまっている事が、緒方にはショックだった。
「アキラ…」
かすれた声で、彼の名を呼ぶ。
そしてやっと、そのままの体勢だと後ろ手に回した両手に身体の重みがかかって苦しいという事に
気付き、アキラの身体を起こしてソファの肘掛けにもたれるように座り直させた。
そしてゆっくりと、謝罪するように、アキラの唇に触れ、それからきつく閉じられた両瞼に順にそっと
触れて、涙を吸い取る。その優しいキスに応えるように、もう一筋、涙が流れた。


(27)
自分の付けたキズ跡を癒すように、そっと緒方はその唇を移動して行った。
ゆっくりと、だが確実にアキラの身体を溶かしながら、緒方の愛撫はアキラの下半身に降下して
いった。そうして降下しきった舌先がアキラの先端に触れた時、アキラはビクリと身体を震わせた。
舌先で先端を弄るようにかすめ、それからゆっくりと丹念に刺激を与えていく。
緒方の舌が与える刺激に、アキラがビクビクとふるえ始めると、緒方はそれをすべて口に含んだ。
口の中のそれを舌で撫で上げながら、軽く歯噛みする。
その刺激についに耐え切れず、アキラは緒方の口の中に放った。
喉の奥に放たれた液体を飲み下すと、緒方は身を起こし、口元を拭いながらアキラを見下ろした。
二度目の放出に、アキラは肩で荒く息をし、その肢体を隠そうともせずにソファに横たわっている。
その唇に、緒方はかるく唇を寄せた。
しかし、そうされても虚ろな瞳で見返すだけのアキラを、瞬間、痛ましそうな目で見る。
そしておもむろに立ち上がり、緒方はアキラの視界から消えていった。
終わったのか、と、かすむ思考の隅でそう思ったアキラを裏切るように、緒方は片手に何かを持っ
て戻ってきた。
まだ、続くのか。ぼんやりとアキラはそう感じた。もはや抵抗しようという気力も残っていなかった。
その小瓶をソファの脇に置くと、着ていた服を荒っぽく脱ぎ捨てる。
その中心にそそり立つものを見て、アキラの目に怯えの色がはしる。だが、そんな怯えなどもの
ともせず、身をかがめて優しく唇を吸い、それから、アキラの身体をうつ伏せに返す。しなやかな黒
髪をかき分けて、耳の裏がわに舌先で触れる。アキラの身体がぴくんと小さく反応する。
舌先がうなじから背筋に這わされる。


(28)
緒方の唇はアキラの背中のそこここに触れ、押し当て、吸い上げ、アキラの感覚を探っていく。
探りながらも、緒方は徐々に背中から腰へと降下して行き、背骨の窪みに十分な刺激を与えた後、
両手で眼前に迫った双丘をつかんだ。
「ああっ…!」
緒方の意図を察したのか、アキラの身体が反射的に逃げようと動く。
だが、その腰を片腕で押え込み、もう片方の腕と自分の身体を使って、アキラの両足を押し開く。
白い双丘の間を舌先でなぞり、谷間を這って、辿り着いた奥の入口を刺激する。
「…や、やぁ…っ」
他人に触れさせる事など考えた事も無い場所への刺激に、アキラは思わず悲鳴を上げる。
なぜ、こんな目にあうのか、なぜこの人が自分にこんなことをするのか、なぜ、なぜ、なぜ…
アキラの両腕を捕らえていた戒めはいつのまにか外れていた。だがその手は既に反抗の意志を
完全に失い、全身を奪い尽くそうとアキラを翻弄する悦楽の波に堪えるために、何処かにしがみつ
くのが精一杯だった。それでも、精神はその波に抗おうと、アキラが必死に問うた。
「なぜ…?なぜ、緒方さん…ボクを…」
なぜ。アキラのその疑問に考える間もなく、ただ、言葉が流れ出ていた。
「お前だと言ったら?」
舌先での奥部への愛撫を止め、指先にそれをまかせてアキラの耳元に顔を寄せ、熱い、掠れた
声で、アキラの後ろから緒方がささやく。
「芦原が言っていたな。
いつも、誰かの顔が目に浮かんで離れない。
だれといても、いつも、そいつの事ばかり考えてしまう。
それが、俺にとってお前だったのだと言ったら?」
自分の発する言葉に、頭の奥でそれにようやく納得している自分がいた。


(29)
いつも、誰かの顔が目に浮かんで離れない。誰といてもその人の事ばかり考えてしまう。
けれど、緒方の言葉に、アキラは反射的に、違う、と思った。
―違う。ボクは―ボクの中にいるのは…
その時、アキラの脳裏に浮かんだのは。

―闇の中に浮かぶ手。コトリ、と石を置くぎこちない手つき。その手つきに似合わぬ鋭い一手。
そしてやはりその鋭さには似つかわしくない無邪気な顔。追いついても追いつけないカベ。
自分を追ってくる影。ボクが追い、ボクを追っていたのは、それは―

けれどそんな幻影を追い払うように、緒方の声がアキラを打ちのめす。
「…だから…だから、もう観念しろ。」


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冷たく、ぬるりとした感触のものがアキラの後ろに塗り込められ、思わずアキラは小さな悲鳴を
上げる。だが、躊躇う事無くぬめる指がヌルリとアキラの中に侵入した。その感覚にアキラの背
筋が跳ね上がる。アキラの内部で緒方の指が何かを探してうごめく。
身体の内側から与えられる未知の感覚に堪えながら、アキラは必死で訴えた。
「いやだ…ちがう、ちがう、あなたじゃない…ボクは…」
だがアキラの抗議の声など、緒方は聞き入れはしない。いやむしろ更に激しく、アキラの内奥を
探り、さらにもう一方の手で前をしごく。
「ああっ…!」
前後からの刺激にたまらずアキラが声をあげる。
「いやだ…いや…」
だが精神を置き去りにして身体は緒方の与える刺激に反応し、緒方の手の中でアキラは硬度を
増していく。
「んんっ…!」
目をきつく閉じ、背を反らせて、抗うように―それとも、ねだるように―頭を振る。
そんな自分の格好がどれほど男の劣情を刺激するかを、アキラは知らない。
押え込まれていた腰が浮きあがり、その秘部を緒方の眼前に晒している事など、アキラは知りもしない。
いつのまにか二本に増えた指を呑み込むようにアキラの内壁がそれを締め付ける。
口から発せられる否定の言葉には相反するように、アキラの下半身は更なる刺激を求めて緒方の
動きに呼応している。
そして緒方の手の中でビクビクと震えるアキラ自身からは懇願するような涙がしたたり始めている。
意に反して受け入れる準備が整えられてしまったアキラを察して、緒方の指が引き抜かれた。
突如失われた刺激にアキラは小さい声を上げると同時にそれに追いすがるように腰を上げる。
まるで求めるように差し出された白い臀部に、緒方を先端を押し当てて、一気にアキラの中に押し
入れた。その熱さと耐え難い質量にアキラは声をこらえきれない。
その悲鳴をなだめるように緒方はアキラを後ろから抱きかかえた。



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