Pastorale 26 - 30


(26)
鳥の声が聞こえる。
風がさやさやと吹いて、あたたかく柔らかい光があたっているのを感じる。
「進藤?」
優しい声が降ってくる。
柔らかな唇が目蓋にそっと触れるのを、ヒカルは感じた。
目を閉じたままアキラの顔を掴まえて、頬に触れようとしていた唇に強引にキスした。
その唇の上でアキラが小さく笑ってるのがわかって、ヒカルは、コラ、ともっと深く唇を重ねた。
いつもならさらさらと指を滑る髪が、湿ってて指に絡まる。
そうか、さっきまで雨が降ってたんだもんな。
思い出してヒカルは目を開けた。

嵐はやってきたときと同じように急速に去って行ったようだった。
木漏れ日がキラキラとまぶしい。
さっきまであれほど乱暴だった空気は今は柔らかく優しい風を送ってくる。空はあんなに真っ黒
だったのに、もうすっかり晴れて青く、明るい日の光がふりそそいでいる。それでも、まださっき
の嵐はどこかで雨を降らせているのかもしれない。空の端の方には黒い雲が残っていた。
ヒカルは手を伸ばしてアキラの顔を引き寄せ、もう一度キスしながら、ぎゅっと抱きしめた。

空を見上げると、木の葉から零れ落ちる水滴に日の光がキラッと輝いた。
雨に洗われてつやつやに光る葉っぱの緑も、空の青さも、雲の白さも、なんて綺麗なんだろう。
視界に写る雨上がりの空を見上げてヒカルは思った。


(27)
何もかもが本当に綺麗だ。
でも、一番綺麗なのは。
オレは目線を戻して、目の前にいる世界中で一番綺麗で一番大好きなオレの恋人の顔をじっと
見つめる。
顔にかかる少し湿った髪を払って指先で顔の輪郭を辿ると、塔矢は本当に綺麗に笑った。
今オレの前には塔矢がいて、この綺麗な空気の中に一緒にいて、オレと同じように綺麗な世界を
感じていると思うと本当に嬉しくなる。つまんない意地の張り合いなんかどうでも良くなる。
今日、ここにこうやっておまえと来れて、本当に良かったよ。
大好きだよ、塔矢。
そんな思いを込めてキスをする。
そうすると、うん、ボクもだよ、と塔矢のキスが返ってくる。
そんなキスを繰り返すうちに、だんだんそれは深くなってくる。
もっともっと塔矢を感じたくなる。塔矢の全部が欲しくなる。
抱き合いながらごろっと転がって、塔矢の身体を下にして、オレの手は塔矢のシャツのボタンを外し、
塔矢の肌を晒していく。
草の緑は、塔矢の白い肌になんて映えるんだろう。
そうやってうっとりと塔矢を見ていたら、塔矢はクスッと笑って手を伸ばし、オレのTシャツをまくりあげ
た。オレは塔矢の手がオレの服を脱がせていくのに任せ、自分は塔矢の服を脱がせていく。
そうしてお互いにハダカになって、オレは抱き慣れた塔矢の体をぎゅっと抱きしめる。
こんな昼日中、しかも外で、ハダカになって抱き合ってるなんて、オレたちってケダモノかも。
そんな事を囁くと、いいじゃないか、ケダモノだって、と塔矢が返す。


(28)
ひんやりした草の感触がなんだか不思議だ。
ところどころちょっとちくちくするけど、でも気持ちいい。
湿った土の匂いと、身体の重みで潰された草の匂いがする。それから、何か甘い香り。
どこで花が咲いてるんだろう。雨が降ったから、香りが強く感じるんだね。と、塔矢が囁く。
けれどオレには、その囁き声が、吐息が、何よりも甘く感じる。
塔矢、と耳元で名前を囁くと、なに?進藤、とアイツの囁き声が返ってくる。
好きだよ、と言う代わりに、オレは塔矢の耳元にそっとキスした。
すると、それに応えるようにアイツの手がオレの耳元から髪をかきあげ、くしゃっと乱す。
眩しそうにオレを見る塔矢の顔は、オレにはもっと眩しくて、でも、目を逸らす事ができない。
見詰め合ううちに、自然に唇が重なる。
もう、オレ達を隔てるものは何にもないから、オレは塔矢の肌の感触を味わうように、アイツの胸に
自分の胸をこすりつけ、脚を絡める。そうしているとどんどん身体が熱くなっていく。その熱を煽る
ように更に身体を動かすと、中心で熱く滾るものが互いに擦れ合って、それはますます熱くなる。
荒い息遣いと、粘液質にぬめるイヤらしい音が、他に誰もいない静かな林の中に響く気がする。
少しずつ身体をずらしながら、オレは塔矢の白い喉元を吸い上げ、鎖骨に齧り付くと、オレの下で
塔矢が乱れた息を吐きながら、軽く身を捩じらせた。
遠くでピチチチチと小鳥の声が聞こえる。オレの頭の中にほんの少しだけ残された理性が、オレは
こんなとこで一体何をやってるんだろう、と呆れたように呟く。けれどそれをかき消すような塔矢の
甘い喘ぎ声が聞こえて、オレはもっと喘がせてやりたくて、口に含んだ乳首に歯を立てると、アイツ
の身体がびくんと跳ねた。


(29)
明るい日の光の下で見る塔矢の肌は本当に透けるくらいに白くて綺麗で、うっとりと頬を摺り寄せる
と、塔矢の手がオレの頭に伸びてきて、笑うようにオレの髪を乱す。
そのまま脇腹に唇を寄せ、ちろりと舌先で擽ると、頭上で吐息が漏れ、逃げるように腰が動く。けれど
それを逃がさないように押さえ込んで、更にそのまま強く吸い上げると、小さく悲鳴が上がった。
白く滑らかな太腿を撫でながら塔矢の脚を押し広げ、普段は日に当たることなんかないそこを、太陽
の下に曝け出す。中心に熱くそそり立つ塔矢のモノに指を絡め扱き上げながら、内腿に唇を寄せる。
静脈の透けて見える蒼白い肌に紅い花を散らすと、オレの手の中で塔矢はびくびくと震えて涙を溢す。
そして目の前の塔矢のそこはひくひくと誘うように蠢いている。指を口に含んで唾液でたっぷりと濡らし
てから、熱いそこに指を滑り込ませると、また高い声が上がった。
「はァッ……ン…ン、あ、…あぁっ…!」
指をぐるっと回すと、更に高く嬌声が上がる。
「…や、ぁ……あ、…し、んど…、も……」
悩ましげな声がオレを急かす。それでもオレがあいつの欲しがるものを与えずに指で弄り続けていた
ら、ぐっと強く髪を掴まれた。思わず顔をあげると、オレを見下ろしている塔矢と目があった。
涙で潤んだ黒い瞳と、紅く染まった目元がが凄まじく色っぽくて、オレの心拍数が跳ね上がる。見つめ
たままぎゅっとアイツを握りこんでやると、キュッと目を瞑ってオレから顔を背けた。
指を引き抜いて、そこに爆発寸前のオレを押し上げると、塔矢の身体がびくん、と振るえる。そのまま
オレはゆっくりと塔矢の中に押し入っていった。
「ん、んんっ…!」
苦しげな声を漏らしながらも、塔矢がオレを迎え入れてくれるのが嬉しい。
そのままぐっと進んで、塔矢の奥の奥までオレ自身を収めきると、息を詰めていた塔矢が大きく息を
ついた。その身体をぎゅっと抱きしめると、同じように抱き返される。背中に回された腕に込められた力
が嬉しくて、目尻に滲んだ涙を吸い取るようにそっと唇で触れた。


(30)
「塔矢、」
塔矢、目を開けて。オレを見て。
そんな思いを込めて、もう片方の目蓋にもそっとキスをする。
「塔矢、」
もう一度名前を呼ぶとオレの気持ちが通じた道に塔矢は目を開けてオレを見た。
「あ……」
ぼんやりと開けられた目が、次第に焦点が合ってきたと思ったら、それはそのままオレを通り過ぎて、
オレの肩越しに何かを見つけたみたいに目を見開いた。
「塔矢?」
「虹……」
ぼうっとしたような声で、塔矢が呟いた。
「え…?」
「虹が出てる。すごい。綺麗だ。」
振り返って塔矢の見ているほうを見ると、雨上がりの空に、はっきりと虹が映っていた。

雨に洗われたような青い空と、薄い白い雲を更に彩るように、七色の虹が大きくはっきりとかかっている。
ヒカルは心を奪われたように、ただ、空を見ていた。
「あっ、」
急に腕を引かれて、何が起きたのかもわからない間に、横倒しに転がされる。びっくりして瞬きを一つ
すると、目の前にアキラの顔があった。アキラはヒカルを見て眩しそうに目を細めて小さく笑い、そして
また目を空に移した。つられてヒカルも空を見上げる。
「綺麗だね。」
「うん。」



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