誘惑 第三部 26 - 30


(26)
皮膚の表面は少し冷たくて、触れた瞬間にはヒヤッとするけれど、ずっと触れ合っていると、
その下の体温が感じられて、暖かいを通り越して熱いくらいだ。その熱が伝わって、こっちま
で熱くなってくる気がする。
だがその熱に別のものが混ざり始めて、ヒカルが戸惑いがちに、小声でアキラを咎める。
「ちょ、ちょっと、塔矢…」
「なに?」
「オレ、眠いんだけど…」
「そう?」
「やめろよ…おまえ…」
「いやだね。」
「もう寝るんじゃなかったのか?」
「誰がそんな事言った?」
「や…めろって…塔矢…!」
「やだ。やめない。」
「おまえ、いい加減にしろよ、動けないとか言ってたくせに、ウソだったのかよ?」
「ホントだよ。ボクん中で元気なのはここだけ。」
思わず身を起こしかけたヒカルをアキラはそのまま抱き寄せる。
「だって今日はまだキミの中に入ってない。まだキミを感じたりないんだ。」
「やっ…めろ、ってばぁ…」
そう言いながらも、ヒカルの中をかき回すアキラの指に、ヒカルは自分自身も熱くなってきて
いるのを感じていた。


(27)
「やめ…やっ…や…だぁ………」
ゆっくりとヒカルの中にアキラが押し入ってくる。
「んっ…」
自身を全て収めきるとアキラはヒカルの胸に両腕を回して抱きしめる。
それきりアキラは動かない。けれど自分の中にアキラがいるという感覚は、眩暈のような陶酔感
と充足感をヒカルに与えた。背に押し付けられた心臓の音と、内部で脈打つ熱い拍動がヒカルに
ゆっくりと火をつける。内と外からアキラの鼓動を感じていると、それだけで頭がくらくらしてくる。
それなのに、ヒカルを抱きしめたまま動こうとしないアキラに、ヒカルは焦れて名を呼んだ。
「……とう…や…ぁ…」
「ん……」
微かな返答が返ってきて、けれどアキラは身じろぎもせず、ただヒカルの身体に回した腕に力を
こめる。そのはずみでかヒカルの内部でアキラがぐん、と動いた。
「…っ!…」
アキラの腕の中でヒカルが跳ねる。
逃げそうになった腰を抱えこむようにしながら、アキラが更に奥へと自らを進める。
「…っ…とう…やっ…」
呼び声に応えるように、揺するように緩やかにアキラが動き出す。緩やかな動きがもどかしくて、
刺激を求めてヒカルは自分から身体を動かす。
「ん、………あ…ぁ……とぉやぁ…」
「しんどう…」
熱い吐息交じりの呼び声を首筋に感じ、更に柔らかな唇の感触がうなじに降りてきて、ヒカルは
背をふるわせる。
じんわりと追い詰めるようなアキラの動きにヒカルが焦れて身を捩り、首を振る。それに応えるよ
うに次第にアキラの動きが大きく、激しくなる。
「あ、あ…と…や…、とうや、もっと…」


(28)
いつの間にか下半身に降りてきていた手がヒカルに触れた。撫でるようにそっと触れられただけ
なのに身体中にびりびりと電流が走ったような衝撃を感じた。
「や、やあぁっ…!」
優しく、愛おしげに撫でる、その柔らかな刺激に耐え切れない。
「や…ダメ…も……あ、…あ、ああぁ…っ…」
耐え切れずに身を震わせながら、ヒカルは優しい手の中に放ってしまう。と同時に、身体の奥に
断続的な熱い迸りを感じて、更に身をよじらす。膝がかくかくと震えて、いつの間にか自分が高く
腰をかかげ上げていたことに気付く。
背後から回された腕が抱きかかえるように優しくヒカルの身体を下ろしていく。
首筋にかかる荒い息と、背に押し付けられた熱い体温を感じて、ヒカルは大きな息をついた。
耳元で声にならない声が自分の名を囁く。その声と、重なり合う身体の重みと、確かな鼓動が
心地良くて、ヒカルはそのまま朦朧とした意識の中に吸い込まれていった。


(29)
最初に感じたのは額に落ちる柔らかな口付けの感触と、自分の名を呼ぶ囁き声だった。
「んん…」
ゆっくりと目を開けるとそこにずっと夢見ていた人物の顔を見つけたので、安心してまた目を閉
じた。彼は何か言っているようだったけれど、意味が聞き取れなくて、わからないままに返事を
すると、彼の手が優しく、髪を梳くように頭を撫でた。これは夢なのかもしれない。それでも構わ
ない。極上の夢を壊したくなくて、目を閉じたまま、また眠りに落ちていった。

次に目を開けると、見慣れた天井が目に入った。
見慣れた無機質な天井。その無機質さとは裏腹に、全身に感じる満ち足りた幸福感。けれども
それを裏切る僅かな肌寒さ。一体どこまでが現実でどこまでが夢だったのか、今、自分は目覚
めているのかそうでないのか、よくわからない。
わからないままにぼんやりと頭を左右に巡らせ、それから何かを補うように薄い布団を身体に巻
きつける。嫌な予感を追い払うように、また夢の世界に逃げ戻るように、目を閉じ小さく身体を縮こ
まらせたアキラの耳に、思いもかけない音が届いた。
ガチャッとドアノブを回す音。ギィーッとドアが軋んで開き、誰かが入ってくる音。
この部屋に自分以外に来る人間は一人しかいない。
「ただいま〜」
若干、間延びしたような声が聞こえる。
これはまだ夢の続きなのか?それとも、確かに目覚めているのなら、全部が夢ではなく本当に
あったことなのか?
どさどさっと何か荷物を置く音。靴を脱いで鍵を閉め、もう一度ガサガサと荷物を持ち上げて、
近づいてくる足音。
これが現実であるならば。
それならば、ただこうして待っていればいい。彼が戻ってきて自分に声をかけるのを。


(30)
「…塔矢?」
「買出し、ご苦労様。」
そっと伺うような声に、顔を向けて応えた。
「起きてたのか?」
「うん、さっき目が覚めた。」
ほんの少し心配そうに覗き込むヒカルに、アキラは笑いかけてベッドから起き上がろうとした。
「シャワー浴びてくるから、キミは先に適当に食べててくれ……っと、」
「塔矢!?」
立ち上がった次の瞬間、視界がブラックアウトした。
手をついて倒れるのを阻止し、しばらくその体勢で待っていると、耳の中で血液が上がってくる音が
する。身体を支える手を感じてゆっくりと目を開けると、ヒカルが心配そうに見上げていた。
「大丈夫か?」
「…大丈夫だよ。」
そう言って笑い顔を作る。
「シャワー浴びてくるよ。……それとも、キミも一緒に入る?」
「…バカ!」
笑いながらヒカルを小さく小突いて、浴室へ向かう。
平静を装いながら歩いていても、地面が揺れているようだ。さすがに昨夜は無理をしすぎたかもしれ
ない、と少しだけ後悔した。言われなくても、体力が落ちていることくらいは自覚している。だからって、
やめろなんて言われたってやめられもしなかったけどね、とアキラは小さく笑った。



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