ヘタレ 26 - 30
(26)
「で、さ、この黒、死んじゃったと思うだろ?でもココに打てば。」
コツ、と静かな部屋に扇子が碁盤を指す音が響く。
「…こんな所に活路があるなんて。」
「へっへー!だろ?これで右辺にも荒らしに入れる。こっちのカカリは無視しなきゃいけない
けど。」
そういば、こうやって進藤の部屋で碁盤を挟むのは二度目だ。和谷の部屋や棋院では幾度
かあったが、ココでは仕切りなおしの一局以来。
「でも、それじゃ地合いで遅れるんじゃないか?」
「うっ…」と、詰まった様な声を出し、目が泳ぐ。
「そうなんだよね。それで最終的に負けたんだよなー。やっぱ駄目かなぁ?」
少し上目遣いで聞いてくる。その表情にドキリとしたが、おくびにも出さず、極めて平静な
声で「駄目ってわけじゃない。確かに良い手だと思う、言われるまで気付かなかったしな。
でも最良の一手じゃあない。」
「あー、伊角さんまでアイツと同じ事言うんだ。ちぇっ。」
アイツ?
アイツってのは塔矢か?
俺が塔矢と同じ事を?
(27)
この進藤の一言で俺の何かが外れた。
「進藤、」
「ん?何?」
「お前にとって塔矢アキラって何なんだ。」
「何って…ライバルだよ。うん、今なら自信持ってライバルだって言える。」
「本当に?本当にそれだけなのか?」
「え、う、うん。そうだよ。他に何がある?」
質問の意図が解らない、といった戸惑いの表情を俺にむける。上目遣いで媚びる様な
―――まるで誘っている様な。
勿論進藤は意識なんてしてないだろう。だが、自分のその表情がどれだけ男を煽るか
自覚した方がいい。
腹が立つ。俺以外が見るのは。
特に、塔矢には見せたくない。
「ああ、でもな、塔矢はどう思っているんだろうな。」
「へ?」
「確かにお前は、今は立派に塔矢のライバルとしての棋力ががある。
でも、ライバルってそんな関係か?学校の帰りに一緒に碁会所寄ったり検討しあった
り?違うだろ?和谷がいつも言ってるじゃないか、「先生が塔矢門下を倒せって五月蝿い
んだ〜」ってさ、
普通はそうだよ。俺は森下先生の意見に賛成だ。ライバルは競い合うモノで馴れ合うもの
じゃあない。もっと殺伐とすべきだ。
それなのにお前はどうだ?
塔矢塔矢塔矢塔矢塔矢!!お前の心の中には常に塔矢アキラがいる!ライバル?
それだけなのか?本当に?お前はそう思っていても、塔矢はお前に対してライバルだという
感情だけしか持ってないのか?そう言い切れるか?
俺は?!俺はお前の何だ?!」
右手で間にある碁盤を押しのけ、左手で進藤の肩を押し、カーペットの上に倒す。
鈍い音がし、苦痛に顔を歪める進藤の右手にある扇子を掴み、「なんだよこの扇子は!
座間先生の真似か?!座間先生の真似したって塔矢には勝てないぞ!!」
「違ッ」
「じゃあ何なんだッ!」
「これは…本当は違うけど…貰ったんだ…アイツに…」
俺の下にいる進藤の顔は、いつの間にか濡れていて、あの初めての日を思い出す。
「誰にだ。」
「言えない。」
濡れた目で、真っ直ぐと俺を見て言う。そんなに大切なのか、誰かに――塔矢にかも
しれない――貰ったという扇子が。俺の手から守るように抱え込んでいる。
無性に腹が立った。進藤の頬を濡らしている水滴を舐め上げ、ジャージのズボンに手を入れる。
「いっ!」
俺の急な行動に対応出来ず、戸惑う進藤。それによって出来た隙に扇子を取り上げジャージを
下着ごと下ろし、何か言われる前に口に指を突っ込む。歯を立てられたが大した事はない。
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寧ろ、進藤が指先に与えてくる刺激は俺の中で快感に変わる。
外してほしいのだが本気では噛めない、といったところだ。甘噛みより少し強いくらいか。
俺と進藤のセックスは、もう既に数えられない回数を経た。その中で痛みは快感に繋がる
という事と、多少無茶をしても体は大丈夫だという事を知った。
そう、いきなり突っ込んでも。
顕わになった進藤の下半身に、後ろの穴に取り上げた扇子の柄を無理矢理挿入する。
「んんー!ん!」
痛いのは少しの間だけだろう?すぐ良くなるよ。
「ッ………!」
中でぐるりと旋回させ、イイところを柄の先で刺激する。
呻き声をもらしながら暴れるので、口につっこんである左手に体重をかけ、動きを抑え顔を近づける。
責めるような目で射るように俺を見つめる進藤。
そんな視線に耐えれなくて、目を逸らし耳朶を甘噛みし、そっと呟いてやる。
「痛いの、好きだろう?
乱暴にした方が燃えるんだろう?」
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扇子の柄は、指よりも長く、硬い。ソレは進藤の前立腺を的確に刺激する事が出来るのだ。
内部にあるしこりを抉る様に突付く。
「んんッ、んんー!!はぁッ、む、んん!!!」
ガリッ、と、進藤の口の中に入れている指が強く噛まれ、血が滲む。そして瞬く間に傷口から
出口を求める様に血が出てきた。
指から滴り落ち、進藤の口の中に入っていく血液。
俺の体液が進藤の体の中に入る。
中出ししてしまった時の興奮に似たものが俺を襲う。
俺の体液が進藤の体に吸収されるのだ。もっと飲んでほしい。ああ、出来るなら俺の血液全部
でもいい。進藤の体の中に入れるなら。
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まさか血が程強く噛んだとは思っていなかったらしく、口内に広がる血の味に顔をしかめる。
お前が気にすることじゃないさ、俺が勝手にしてるんだ。それに、俺も痛い方が感じるよ。それが
進藤に与えられた刺激だと尚更だ。
申し訳ないと言うように、少し上目遣いで俺に目で訴えかけ、傷口に舌を這わし、血を舐めとる。
俺は指を舐められているのに、まるで自分のものを舐められているかの様な感覚におそわれた。
してもらった事はないので想像だが。
息を荒らげてしまう。指に感じる進藤の舌の感触、ああもっと味わいたい。想像じゃなくて、直に、
俺のペニスに。
「なぁ進藤…オレのを、舐めてほしいんだ。今の指みたいに。」
…駄目か?おそるおそる聞いてみる。口に指つっこんでケツに扇子つっこんでいる人間の
セリフじゃないな。ここまでやってるんだ、無理矢理口につっこんでしゃぶらせればいいんだ。
こんな、ご機嫌窺う様な声色で聞かなくても。
ここまでしといてなんだが、俺はやっぱり、嫌われたくないんだと思う。
そんな自分勝手極まりない事を考えている最低な俺を見つめる進藤。
…そして、小さく頷いた。
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