ルームサービス 26 - 31
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実際始めての時はそうだった。
泣き喚き、終わった後に気絶してしまった涙でボロボロになった
顔と、現在より小さかった汚れた体を見おろしたときは、大切に
していた小さな花を散らしてしまったような気がして、ひどい罪悪感が
あった。
だが、その甘美さを忘れることもできなかった。
そして、とりつかれたように、それを味わううち。
花は散ってなどいかないのだと気がついた。
苦しげにアキラのものを飲み込んで震えているかに見えたそこが、
アキラの手が肌を這いまわるのに反応して、あまく収縮し始める。
乳首と前の芯が、花開くようにたちあがる。
かわいらしい唇がなやましい喘ぎを奏で始める。
色素の薄い瞳が潤んでやや黒目がちになり、震える指がアキラの背中にまわり、
激しくつきあげたアキラの動きに爪をたてる。
「とう・・・や・・・とう・・や・・・・・あっあっ」
花びらは散ってゆく。しかし、その下から、また花が、以前よりも
さらに美しくなった花びらが咲いてアキラを誘う。
アキラは必死になるしかなかった。
常に必死だった。自分が抱いててもヒカルが自分のものに
なったなどという気持ちはわかなかった。
この目もくらむような光で、自分を惑わせる花に必死でくらい
ついていくしかなかった。
ヒカルの肌に跡が残らないことがそのことを象徴しているような気がした。
アキラに貫かれて、揺られ、しがみついて、激しくくねっていたほそい体。
その爪はアキラの背中に甘い跡を残しているのに・・・。
ヒカルの体には、何も残っていかない
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あの器具をアキラに渡したのは緒方だった。
「ホラ、アキラ君、やるよ」
「なんですか?緒方さん」
「進藤宛に棋院に来てたんだとよ。壮絶なラブレターが一緒だ」
困惑するアキラの手に箱を押し付け、緒方は去ってゆく。
「叩き壊すなり、使用するなり、好きにしろよ」
箱の中身を見て、仰天するアキラに緒方が振り返って面白そうに言う。
「進藤はそういうのに向いてるぜ、なんてったって跡が残らない
んだから」
箱から取り出した手紙をあける。
ヒカルにピッタリだと思います。ヒカルがそれをつけたところをそうぞう
してなんどもなんどもイキました。
大きな文字で書いてあり、あわててポケットに入れた。
使うつもりなんてもちろんなかった。
だが、ヒカルがそれを無邪気にそこに押し当ててはしゃぐのを見た時。
アキラの中で何かが少し壊れた。
ふざけていたことなどはわかっていた。
アキラの反応を面白がっていたことも。
だが、あまりに残酷だと思った。自分に対しても、器具を送った誰かに
対しても。たとえ、本人には何もわかっていなくても。
だったらそのツケを払ってもらおうと思った。
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(塔矢、ね・・・塔矢・・・お願いだから・・・・)
頭の上にネクタイでくくられれた両腕を固定され、ベッドにねかされた白い
裸体、小さな頭をのけぞらせて枕にすりつけ、時折左右にふり必死で快楽をこ
らえている。薄く汗をかいた肌にアキラが触れると懸命にすりつけて来る。わ
ざとはずすと、泣き出しそうになる表情がたまらなくかわいらしくて何度もキ
スをした。
それはすばらしい光景だった。
ずっと見ていたいと思った。
花は散らすより愛でるものなのだと妙に納得した。
写真にとっておきたいと思ったので写真にとった。
トイレに行って、手を洗ったあと、ポケットの中の手紙に気が付いた。
開いて読む。ラブレターとは名ばかりの妄想の羅列。
だが、その文章にはまがいのない熱がこめられていて、それと
携帯の写真を見ながら。アキラは抜いた。
手に残った白い粘液を見て、情けなさに少し笑った。
手紙でそれを拭き、ちぎってトイレに流した。
(よかったな、犬)
手紙は流れてしまったが、その主が送った器具は、本当にヒカルを
犯し、甘い喘ぎをあげさせている。
手紙の主が知ったら狂喜乱舞するだろうか。
(・・・・・・ボクに嫉妬するだけか)
ヒカルの姿に同じような妄想を抱いている犬は一体どれくらいいるのだろう。
(犬)
鏡の中の自分をみる。凶暴な顔をしていた。
(お前たちの妄想をボクが本当にしてやろうか?)
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「進藤、後ろむいて、お尻、洗うから」
シャワーの湯に身を委ねていたヒカルがうっすらと目を開く。
「いた・・・いから、ゆっくり・・・うっ」
つらそうにうつぶせになった背中を震わせる。
だが、シャワーの水流の向きがかわり、奥に水が入った時。
「あう・・・ん」
声に微妙なリズムがあった。入り口近くはつらいらしいが、奥は
そうでもないらしい。
「もっとお尻あげて」
素直にかかげられたかわらいらしいふたつのまるみの中心をアキラは
注意深くあらう。
「う・・んっ・・・うあっん」
二人だけの浴室に声が響く。
アキラがシャワーを置くと、ヒカルがけだるげだが上気している顔をアキ
ラの方へむけた。
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「終わった?」
「うん」
手をアキラの方へさしだした。
「起こして」
アキラは言われた通りにヒカルの体を起こした。
起き上がったヒカルがアキラの裸の胸に頭をすりつけてくる。
自然にアキラはヒカルの背に手を回した。
浴室の扉が開く音がした。
(犬か・・)
せっかくいい雰囲気なのに、と残念に思ったとき。
ヒカルの体がふいに硬直した。
「やだ・・・・」
「・・・進藤・・・・?」
「や・・・だ、塔矢」
振り返った塔矢は、ヒカルの見開かれた視線の先に、犬の両手が
あるのに気が付いた。
手袋をしている。
(ああ、フィスト用って言っていたなあの手袋)
アキラは納得した。
そもそもアキラは、フィストが何を指すのかわかってなかった。
手紙の内容にフィストとあり、グッズの広告にフィスト用
ラバー手袋と書いてあったから注文してみたのだ。
持ってきた配達人の説明にさすがにアキラも驚き、本当に
使おうと言う気はさすがになかったのだが。
ヒカルはは怯えた口調で、アキラに哀願した。
「や・・め・・てくれ・・よ。頼むから・・死んじゃう・・よ」
「・・時間をかければ大丈夫だって言ってたけど・・」
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ひくりとヒカルの体が硬直し、大きな瞳が、アキラを信じられないものの
ように見つめた。涙のつぶが見る見る盛り上がる。
「いや・・・だ。たの・・・む」
いやいやをするように首をふり、泣き出した。
「進藤・・・」
さすがにアキラも残酷すぎたかと思った。
だけど、冗談だという言葉が湧いてこない。
なんともいえず、嗚咽するヒカルをみていた
突然ヒカルが言い出した。
「塔・矢・・・はオレを憎んでるのか・・・・」
「憎んでる?なんで・・・・」
アキラは聞いた。憎んでいるなどと感じたことはない。
「だって・・・」
アキラはヒカルの言葉を待つ。
「だって・・・・何・・・?キミを憎む理由なんて何もない。キミに
ボクが負けたとしても・・・」
怒っているのかと聞かれれば納得できるが、憎んでいるという言い方が
不思議に思えた。
「でも・・・だって・・・・」
何か言葉を探すように・・・ヒカルがあえぐ。
「だって・・・・塔矢は・・・・ほん・・・とう・・は・・・」
さまよった視線がアキラの強い注視に出会いおびえたようにとまった。
なにか言いかけていた唇を閉じ、下を向いた。
・・・・・・・
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