トーヤアキラの一日 27
(27)
アキラはヒカルの背中に手を回して、背中のバッグごと抱きかかえていた。ヒカルは手を
ダラリと下げたままアキラに少し寄りかかるようにして黙っていた。
この一ヶ月、ヒカルの手を取って抱き締めたい、と夢にまで見ていた事が現実になって
いる。コートを通して、ヒカルの温もりが伝わってくる。アキラの頬にヒカルの柔らかい
髪が触れて、耳元でヒカルの息遣いを感じる事が出来る。
ほんの少し前までは、こんな瞬間が訪れる事は想像も出来なかったのに、今は現実の
ヒカルを抱き締めている。アキラは、嬉しさで冷え切っていた体中の血液が激しく循環
しているのを感じていた。そして高鳴る鼓動が次の行動を促す。
アキラは両手を移動させてヒカルの肩を両側から掴み、体を少し離した。愛しいヒカルの
顔を覗き込むと、ヒカルは放心したようにアキラを見る。
もう薄暗くなった公園には電灯が点いていた。その光がヒカルの瞳を照らして、キラキラ
輝いて揺らめいている。アキラはそっと顔を近づけてヒカルの唇に唇を重ねた。
唇が重なる瞬間にヒカルが目を閉じるのが見えた。アキラは目を開けたまま、軽く唇に
触れてから、ゆっくり顔を離した。ヒカルは瞑った目を開けてアキラを見詰めて来た。
その潤んだ瞳にアキラは体がゾクッと震えるのがわかる。ヒカルは小さな声で
「トーヤ・・・・・」
と呟き、そのまま口をわずかに開けて、アキラの唇をチラリと見遣る。
アキラは次の瞬間、考える間もなく、激しくヒカルの唇を捕らえていた。腕をヒカルの
コートとバッグの間に入れて、強く抱き締めると、ヒカルもそれに応える形でアキラの
背中に手を回して来た。二つの影が重なって一つになった瞬間だった。
本能の命じるままに、アキラはヒカルの口の中に舌を差し入れてヒカルの舌を捕らえた。
体で気持ちを確かめ合おうとするように、お互いに舌を絡ませながら、より強く抱き締め
合う。だが慣れていないアキラは、呼吸のタイミングがわからずに、すぐに息切れがして
顔を離した。鼻と鼻を合わせながら、お互いに荒い呼吸を整えて初めてのキスの余韻に浸る。
|