クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 27
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「へ、そいつ今弱ってんの?どういうことだ?」
「わからない。特別なことは何もしていないはずだが・・・」
「特別なこと・・・?あっ」
光は急いで懐から一枚の紙片を取り出した。
「何だい?それは」
「護符なんだってさ。オマエの見舞いに渡してくれって、あかりから貰ったんだ。
さる親王様・・・一の宮様とか云う方がくれたんだって、云われたけど」
「一の宮?」
「知ってるのか?」
「帝に腹違いの兄宮が御ひと方おいでになるという話は聞いたことがあるが、
どのような方かまでは・・・近衛、ちょっとそれを見せてくれないか」
それは、明が見たことのない図柄だった。
一本の太い線が中心に向かって渦を巻く様子は、奇しくも蛇――クチナハを連想させる。
その護符を明が光から受け取る瞬間体内のクチナハが苦しむように大きく一つくねり、
次いでもともと緩慢だった動きが更に弱くなった。
――これだ。
明はにやりと赤い唇の端に微笑みをのぼらせた。
我が身が苛まれているさなかだと云うのに、妖しを追いつめられるかも知れぬ手立てが
見つかって心に攻撃的な歓びを覚えるのは、陰陽師としての血の成せる業だろうか。
妖しいまでに艶かしく美しいその表情に、己を抱きかかえる光が一瞬目を丸くし
ぞくりと身を震わせたことにも明は気づかない。
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