平安幻想異聞録-異聞- 27


(27)
それから、3日。ヒカルもまだ出仕する事はできないまでも、起きて
動き回れるようにはなったので、
佐為は昼間は町の碁会所の方へ顔を出すようになっていた。
自宅にも寄り、しばらくヒカルに掛かり切りで帰ることもままならなかった
日数分、あちこちに溜まっていたホコリを掃き出す。
碁会所の方には、ヒカルの具合を気にして加賀や筒井、三谷と言った
ヒカルの検非違使仲間が顔を出し、佐為にヒカルの容体を聞いていく。
どうせなら直接近衛の家に行けばいいのに、それは照れがあるらしく
「やっぱり、病人の家をさわがせちゃ、迷惑だから」とかなんとか
言いわけするのが可笑しい。
囲碁関係の書物の置かれた棚を軽くから拭きしながら、佐為は
ヒカルの事を思った。
あれから、毎日、どういうわけか、ヒカルは佐為の顔を見て訪ねてくるのだ。
『おまえもさ、オレにそういうことしたいって思ったことあるの?』
佐為はその度に「そんなわけがないでしょう?」と答えるのだが、
ヒカルの瞳に宿る不安の色が消えることはなかった。
(見透かされているのかもしれませんね)
ヒカルはそういう子だった。外見の幼さに騙されて侮ると、
ふとした拍子に足元を掬われることがある。何も知らないような顔をしながら、
どういうわけか、いつも真実のすぐ近くに立っている子だった。
――だから、あの子には、自分が嘘を言っているのが、ばれてしまっているの
 かもしれない。
佐為が嘘を言っているのがわかるから、ヒカルの瞳から不安の色が消えないのだ。
思えば出会った頃から、心地のよい嘘よりも、痛くても真実の方を選ぶ子
だった気がする。
そう、私は嘘をついていたのだ。ヒカルに。
だが、ヒカルを傷つけることがわかっている真実をどう伝えよというのだろう。
ヒカルの傍に立ちながら、少年の柔らかさを残す彼の体の輪郭を想い、
そのまろやかな肌に触れ、唇を寄せたいと思ったことが、
一度や二度の事ではないのだと言うことを。



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