弄ばれたい御衣黄桜下の翻弄覗き夜話 27


(27)
ヒカルの唇が、その言葉に誘われて開いた。
「……と…………」
「なに?」
「とぉ……や………」
すぐさま門脇の脳裏に、囲碁界を騒がす俊英の少年の、すっきりとした面立ちが
浮かんだ。
毛質の良さそうな黒髪を古風に切りそろえ、まだ十五やそこいらのくせにグレーの
スーツがよく似合う――ヒカルと同期ではないが、年は同じはずだ。
彼とヒカルの組み合わせは、どことなく納得がいく気がした。
「塔矢――塔矢アキラか……?」
しかし、ヒカルは門脇のその確認を、弱々しく否定する。
「ちが……」
「じゃあ、だ…」
「塔矢、先…生……」
その次の瞬間のヒカルの表情の変化は、劇的な程だった。
必死に隠してしてきたその秘密の名前を、自分が声にして晒してしまった事に気付い
た彼は、あっと言う間に正気に返り、上にのし掛かっていた門脇の体を突き飛ばすと、
上体を起こし、口を覆った。
ヒカルの言葉の意味を、まだ完全に飲み込めず唖然としている門脇に、ヒカルが
恐る恐るといった表情で訊ねてくる。
「門脇さん……、聞いちゃった?」
掠れるその声には、どこか怯えが混じっている。
「塔矢先生って……、塔矢元名人か?」
あー、やっぱり、聞いちゃったんだ、とヒカルが小さく言うのが聞こえた。
「塔矢って……、塔矢行洋だよな?」
「そうだよ、塔矢先生って言ったら、他に誰がいるんだよ」
もう隠す事のなくなったヒカルの態度は、いっそふてぶてしい。
驚くというよりも、この思ってもみない相手の名に呆れ果てて、門脇はヒカルの
顔を凝視した。



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