パッチワーク 27
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芦原さんの家に電話をすると市河さんが−本当は芦原さんの奥さんって呼ばなければならないけれど旦那さんの
芦原さんが家では「奥さん」って平気で呼べるし市河さんも平気で返事できるのに、新婚当時緒方さんがからか
いすぎたせいか外では「奥さん」って呼ぼうとすると芦原さんは顔を真っ赤にして照れてしまうものだから市河
さんも照れてしまって結局芦原さんは外では「市河さん」って呼んでいる。だから何とはなしに結婚して何年に
もなるのにみんな市河さんと呼んでしまっている−入院費用や着替えは市河さんじゃないと言うのだ。
市河さんが病院で聞いたことによると三日おきに汚れ物を取りに来て着替えを置いて行き入院費用を払っていた
のは若い女性だったというのだ。「アキラ君の彼女じゃないの。今度紹介してね。」曖昧に返事をして電話を切
った。心当たりは一人だけいる「あの女」だ。
数年前、彼の両親が転勤で仙台に転居するとき彼の両親は彼も一緒に仙台へ連れていこうとした。彼は東京に残
って一人暮らしをしようとして反対され、友達(僕のことだ、彼の両親にとって僕は彼の恋人ではなく会ったこ
ともない彼の友達なのだ)と一緒に暮らしたいと言って反対された。そして彼の両親が彼が東京に残るならと条
件にしたのが今住んでいる家での彼女との同居だった。いくら彼女が高校・大学と何年も彼の家に下宿していて
家族同様と言っても未婚の男女を二人っきりで同居されるだなんできっと彼女が断るだろうと思った。でも彼女
は断らなかった。実際は彼の両親の転居後彼は僕の部屋で暮らしているようなものだった。でも、両親が何かで
帰京するという連絡があると「帰る」といって彼女のいる家に帰っていった。
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