落日 27
(27)
佐為を求めて伸ばした腕が、他の誰かに抱きとめられる。
温かい胸。佐為じゃない、温かい身体。最後に抱きしめた佐為の身体は冷たかった。あんまり冷
たくて、抱きしめた俺の身体まで冷えきってしまうほどに冷たくて、だから俺は温もりを求めてこの
胸に抱きついた。佐為じゃないことはわかっていたのに。
その人が何か言っている。指が頬を撫で、涙を吸い取るように温かい唇が目元にそっと触れる。
その腕を、くちづけを、確かに温かいと感じているのに、それなのになぜだか全てがどこか遠くの
世界の事のように思えた。言い募る声は聞こえているのに、言葉の意味が届いてこなかった。
己の身体を抱きしめている力強い腕。温かい胸。優しい声。
それでも、この腕は佐為じゃない。
佐為はもういない。どこにもいない。
あんな冷たくなってしまった佐為なんて知らない。あんなのは佐為じゃない。
佐為じゃないのに、佐為じゃない事はわかってるのに、それなのに俺はどうして。
この腕が佐為でない事など知っていた。知ってて、わかっててそれでも縋りついたのは俺だ。
「ごめんなさい…」
思うよりも先に言葉が零れ落ちた。
「なんで、なんでおまえが謝るんだ…?」
「ごめん…ごめんなさい……」
「……何を…謝ってるんだ?わからない……。」
「おまえが謝らなきゃならないような事は何も無い。だから、もう、泣くな。」
子供をあやすような声が降ってくる。優しく背を撫でる手を感じる。
けれどそれでもヒカルは彼の声に耳を閉ざし、小さく頭を振って、涙を溢すだけだった。
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