失着点・龍界編 27
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何か重要な任務を預かるように伊角は受け応え、立ち去るアキラの背を
和谷と共に見つめる。
アキラにしてみれば、ヒカルが携帯を失くした事をひどく気にしていたよう
だったので、親切な人のお陰で無事に戻りそうなのを早く伝えてあげようと
思ったのだ。
ちょっと立ち寄って、携帯を受け取って、碁会所で緒方さんにでも
預ければいい。そうしようと考えていた。
ささやかな事でもヒカルの為に動く事でヒカルと会えない空白を
埋めようとしていた。
アキラは新宿に着くとメールにあった住所のビルを探し、そこに入り、
「龍山」の入り口のドアを開けた。
席亭がその姿を見るなり息を飲み、気付かれないよう顔の半分で
にやりと笑う。
カウンターの若い男が店の奥で緒方と打っている沢淵に耳打ちをしに行く。
中央の柱に弧を描くようにしてある店内で、緒方から入り口は見えなかった。
“そっちの目的”の客として特に奥まった一角に案内されていたからだ。
「あの、…こちらに、知り合いが無くした携帯が置いてあるって、
聞いたのですが。」
「ああ、そう言えば、客の誰かが預けて行ったかなあ。」
アキラはちらりと店の中の様子を見る。ヒカルが一人でこういう所に
出入りするとは思えなかった。
そのアキラの視界を邪魔するように席亭と一人の男が前に立った。
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