失着点・展界編 27
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緒方の手の救急箱にヒカルはギクリとなった。ベッドの上を壁際に後ずさり
すると、緒方もベッドに腰掛け、膝に乗せた救急箱の蓋をコツコツ叩く。
「病院に行くか、オレの手当てを受けるか、選んでもらおうか。」
「…病院は…絶対嫌だ…。」
だからといって緒方に手当てされるのも泣きたいくらい嫌だったのだが、
緒方は無慈悲に箱の蓋をあけ、脱脂綿を取り出す。
「相手はどういう奴だ。…場合によっては、警察に届ける。」
警察、と聞いてヒカルは青くなった。
「知っている相手なのか?無理矢理だったのか?」
静かだが厳しい口調の緒方の詰問が続く。
「と、友達だよ…。ちょ、ちょっとふざけてて…」
「友達?囲碁のか?」
しまった、と思ってヒカルは口を噤んだ。これ以上は何も話すまいと緒方から
視線を逸らした。眼鏡がなく髪が乱れているせいか別人のように感じられた。
「…わかった。もういい。」
心底呆れたといった表情で緒方は消毒用のアルコールを脱脂綿に含ませる。
そしてヒカルに用意するよう目で命令してきた。
しばらく睨み合った後、ヒカルは渋々うつ伏せになった。
「お子様用の傷薬はないんだ。…我慢しろよ。」
腰のところに巻き付いているタオルをギリギリまでたくし上げ、緒方は
脱脂綿をその部分にあてた。
「うああっ!!」
焼けた火箸を差し込まれるような激しい熱さが走り、ヒカルは悲鳴をあげた。
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