裏階段 アキラ編 27 - 28
(27)
チャイムが鳴ってドアを開けた時、ランドセルを背負ったままのアキラの姿を見た時は
少なからず動揺した。
同時期に行われたある企業が主催のリーグ戦を制して後援会からちょっとした祝賀会を
催してもらい、酒宴あけのまだほろ酔い気分が抜けきらない状態だった。
「緒方さん、おめでとうございます。…ボク、直接観に行きたかった。」
対局会場は西日本方面の各地であった。決勝戦は瀬戸内海のあるホテルで行われた。
「すべての対局を観に行っていたらきりがないよ。」
アキラはオレンジやキウイの詰まった紙袋を抱えていた。彼なりに選んだお祝の品だった。
お礼を言ってそれを受け取り、玄関で佇むアキラに、それ以上どう答えたらいいか迷った。
その時オレの部屋には来客がいたからだ。
アキラの足下に白いハイヒールがそろえて置かている。
だがアキラの視線がそのハイヒールではなく、自分の背後の方に注がれ停まっている事に
気がつき、ハッとなって振り向いた。
「いらっしゃい、坊や。セイジさん、上がってもらいなさいよ。」
素肌に薄手の毛布を巻き付けた格好で彼女は立っていた。
面白半分に幼いアキラの戦意を掻き立てるように、彼女はアキラににっこり微笑みかけると
部屋の奥へ戻っていった。
「…お邪魔しました。」
ぺこりとアキラは頭を下げるとドアを開けて出て行った。
呼び止めることは出来なかった。
彼女を睨み付けて立っていたアキラのその時の表情は今でも忘れられない。
(28)
「…大人気ない事をするもんじゃない。」
アキラが帰っていったあと、ベッドルームに居座る彼女を窘めた。
「あのコ、まるでお乳をもらっている途中で母親から引き離された仔猫みたいな目してたわ。
よほどあなたの事がお気に入りなのね。」
「いい加減にしないか。」
「それともあなたの方があのコを気に入っているのかしら。綺麗な顔の男の子だものね。
あと数年もしたら…」
「…やめろ。」
「数年もしたら立派なsexの対象になりえるわ。」
ベッドサイドにあった水差しを払い除けて床に叩き付けた。
「…帰ってくれ。」
「冗談よ。ばっかみたい。」
手早く化粧と身支度を済ませると彼女は部屋から出て行った。それ以降彼女や、
彼女以外にも女性を部屋入れる事はしなくなった。
彼女が本能的に何をアキラから嗅ぎ取ったのかはわからない。それはアキラもそうだった。
男女の関係の生臭さを目の当たりにして嫌悪感を抱いたのか、それからしばらくアキラは
オレから離れるようになった。それはそれで仕方ないと思った。
あれだけ望んでいた距離感がこれで持てるじゃないか、と自分に言い聞かせた。
あまり格好の良いかたちではないが、仕方ない。
そう思って過ごしていたある日、再びアキラはオレのマンションにやって来た。
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