初めての体験 Asid 桑原(2)
(27)
ボクは、老人の身体を片手で押さえ付けながら、ベルトに手をかけた。片手で金具を
弄るのに少しばかり苦労したが、何とか外すとそのまま勢い良く引き抜いた。
怯える老人の目の前で、ベルトを両手で持ち、撓らせて見せた。パシン―――と、
小気味良い音が座敷に響く。
何だか、ワクワクしてきた。調子が出てきたのかもしれない。最初はあまり乗り気では
なかったが、あの怯えた目がボクを高ぶらせるのだ。
ボクは腰を少し浮かせ、本因坊の身体を反転させると、後ろ手にベルトで縛り上げた。
薬のせいで身体の利かない老人にするような行為ではないが、ボクは容赦する気はない。
この老人は、ボクを弄ぼうとしたんだ!絶対、許せない。
ボクは、本因坊のズボンと下着を取り去った。老人のグロテスクなモノは、もう鎌首を
もたげていた。しかし、シワだらけの老人斑の浮かんだ下半身を目にした瞬間、ボクの
身体の熱は急激に冷めた。はっきり言って醜い。
だが、熱が引いたことにより、ボクは自分の頭が却って冴えていくのを感じた。今回は、
冷静に対処できそうな気がする。今までは、ボクが未熟なために、行為に興奮して少々
やりすぎたりもしたし……。
ボクは、一度決めたことは必ずやり遂げる。相手が老人だろうが、猿だろうが関係ない。
いつか進藤と……するために、練習台になってください。桑原先生。
(28)
ボクは、自分のベルトを抜いた。そして、バックルを握るようにして、手に一回巻いた。
空でそれを振ると、ヒュンと風を切る音がした。続けて二度、三度振ってみる。これは、
威嚇だ。老人は、鋭い音が響く度に首を竦ませた。
ボクは、本因坊の傍らに膝をついた。
「ご気分はいかがですか?」
老人は答えない。
「いつも、こういうことをしているんですか?」
答える気がないのか、答えられないのか相変わらず無言のままだ。ボクも返事を期待して
いるわけではない。ただ、言葉で嬲っているだけだ。きっと、今までに何人もの若手棋士が
この老人の毒牙にかかっているに違いない。もっとも、ボクも人のことは言えないのだが…。
突然、ある不安が頭を過ぎった。この老人がボクの考え通り、若手棋士を陵辱してきた
のなら、もしかしたら進藤も…?本因坊が、あの可愛い進藤に目を付けないわけがない。
そう言えば、以前進藤は、本因坊の指導碁に付き合わされたとか言ってはいなかったか?
えらく不機嫌で、老人に対する怒りを隠そうともしなかった。あの時は、さほど深い意味が
あるとは思っていなかったので、ボクは、その理由を追求しなかったのだが…………。
こうなったら何が何でも、桑原本因坊の口を割らせないと――――――ボクの予想通りなら
ただではおかない。例え、勘違いだったとしても、ボクをここまで不安にさせたこの老人を
許す気はない。八つ当たりだろうがなんだろうが、絶対に許さない。
(29)
ボクは、俯せで転がされている老人の後頭部を掠めるように、ベルトを振り下ろした。
老人の身体がビクッと震える。
「先生、ちっともボクの質問に、答えてくださらないんですね…」
ボクは、静かに立ち上がった。そうして、押し黙ったままの老人のすぐ脇にある邪魔な膳を、
思い切り蹴飛ばした。派手な音を立てて、陶器の器が畳の上に投げ出された。幾つかは、
欠けてしまったかもしれない。
足で、老人を転がす。枯れ木の様な身体は、簡単に仰向けになった。ボクは、立った
まま、本因坊を睨み据えた。
「進藤ヒカル――――ご存じですよね?」
一瞬、老人の瞳に動揺が走ったのをボクは見逃さなかった。
「彼とここに来たことが、あるのではないですか?」
本因坊は、慌てて首を振った。ウソだ―――――直感的にそう思った。
「彼――――ボクの恋人なんです。」
ボクがそう言ったと同時に、冷水を頭から浴びせられたかのように、老人の身体がぶるぶると
小刻みに震えだした。
(30)
ボクは、今、「ここに進藤と来たことがあるか?」と訊いた。「来ていない」と、いうのが、
ウソだとすると…この老人は少なくとも二回以上進藤と――――――!?
だって、あの時は地方のイベントだったんだ!ここは、東京…。ああ…知りたくなかった。
進藤がこの猿に……!し・か・も 二 回 も !!!ジジイ!こんなカマかけに、
簡単に引っかかるな!
だが、例え老人がしらを切ったとしても、ボクは彼が白状するまで執拗に嬲り続けた
だろう。だから、結果は同じだ……同じなんだけど……ああああぁぁぁ!!!でも、納得
できない!身勝手と言われても、認められるかぁ!
ボクの心は、怒りの臨界点を突き抜けて、逆に酷く冷静なっていた。無理に感情を
抑える必要はない。頭の中は異常な程に冴えていた。
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ボクは、本因坊を冷たく一瞥した。と、ある一点に、視線が止まってしまった。怯えた
表情とは裏腹に、老人のグロテスクなモノは隆々と立ち上がっていた。
相当、強力な薬だったらしい。たった一口でこれか……。全部飲んでいたら、死んでいた
かもしれないな。そのほうが、よかったのに……。 だが、よく考えると、あれは本来ボクが
飲むはずの物だった。若い僕でも、ただですむわけがナイ!徹底的に、虐めてやる!
「はしたないですね。ここをこんなにして…」
ボクは、ベルトで、軽くそこを叩(はた)いた。「うぅ!」老人が小さく呻いた。
続けて、何度も叩く。力を入れずに、ごくごく軽く。老人の口から、熱い息が吐かれた。
「感じているんですか?こんなことをされているのに?」
そう言いながらボクは、思い切り、老人の太股を打った。
パァン!―――――鋭い音が座敷に響いた。
「ひぃ……!」
悲鳴が上がる。痛みで本因坊のモノは、少し萎えてしまった。
ボクは、再び老人をベルトで軽く嬲る。とても優しく、愛撫するように…。そして、
その後は――――――
それを何度も何度も交互に繰り返した。
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