初めての体験 Asid 27 - 32
(27)
ボクは、老人の身体を片手で押さえ付けながら、ベルトに手をかけた。片手で金具を
弄るのに少しばかり苦労したが、何とか外すとそのまま勢い良く引き抜いた。
怯える老人の目の前で、ベルトを両手で持ち、撓らせて見せた。パシン―――と、
小気味良い音が座敷に響く。
何だか、ワクワクしてきた。調子が出てきたのかもしれない。最初はあまり乗り気では
なかったが、あの怯えた目がボクを高ぶらせるのだ。
ボクは腰を少し浮かせ、本因坊の身体を反転させると、後ろ手にベルトで縛り上げた。
薬のせいで身体の利かない老人にするような行為ではないが、ボクは容赦する気はない。
この老人は、ボクを弄ぼうとしたんだ!絶対、許せない。
ボクは、本因坊のズボンと下着を取り去った。老人のグロテスクなモノは、もう鎌首を
もたげていた。しかし、シワだらけの老人斑の浮かんだ下半身を目にした瞬間、ボクの
身体の熱は急激に冷めた。はっきり言って醜い。
だが、熱が引いたことにより、ボクは自分の頭が却って冴えていくのを感じた。今回は、
冷静に対処できそうな気がする。今までは、ボクが未熟なために、行為に興奮して少々
やりすぎたりもしたし……。
ボクは、一度決めたことは必ずやり遂げる。相手が老人だろうが、猿だろうが関係ない。
いつか進藤と……するために、練習台になってください。桑原先生。
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ボクは、自分のベルトを抜いた。そして、バックルを握るようにして、手に一回巻いた。
空でそれを振ると、ヒュンと風を切る音がした。続けて二度、三度振ってみる。これは、
威嚇だ。老人は、鋭い音が響く度に首を竦ませた。
ボクは、本因坊の傍らに膝をついた。
「ご気分はいかがですか?」
老人は答えない。
「いつも、こういうことをしているんですか?」
答える気がないのか、答えられないのか相変わらず無言のままだ。ボクも返事を期待して
いるわけではない。ただ、言葉で嬲っているだけだ。きっと、今までに何人もの若手棋士が
この老人の毒牙にかかっているに違いない。もっとも、ボクも人のことは言えないのだが…。
突然、ある不安が頭を過ぎった。この老人がボクの考え通り、若手棋士を陵辱してきた
のなら、もしかしたら進藤も…?本因坊が、あの可愛い進藤に目を付けないわけがない。
そう言えば、以前進藤は、本因坊の指導碁に付き合わされたとか言ってはいなかったか?
えらく不機嫌で、老人に対する怒りを隠そうともしなかった。あの時は、さほど深い意味が
あるとは思っていなかったので、ボクは、その理由を追求しなかったのだが…………。
こうなったら何が何でも、桑原本因坊の口を割らせないと――――――ボクの予想通りなら
ただではおかない。例え、勘違いだったとしても、ボクをここまで不安にさせたこの老人を
許す気はない。八つ当たりだろうがなんだろうが、絶対に許さない。
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ボクは、俯せで転がされている老人の後頭部を掠めるように、ベルトを振り下ろした。
老人の身体がビクッと震える。
「先生、ちっともボクの質問に、答えてくださらないんですね…」
ボクは、静かに立ち上がった。そうして、押し黙ったままの老人のすぐ脇にある邪魔な膳を、
思い切り蹴飛ばした。派手な音を立てて、陶器の器が畳の上に投げ出された。幾つかは、
欠けてしまったかもしれない。
足で、老人を転がす。枯れ木の様な身体は、簡単に仰向けになった。ボクは、立った
まま、本因坊を睨み据えた。
「進藤ヒカル――――ご存じですよね?」
一瞬、老人の瞳に動揺が走ったのをボクは見逃さなかった。
「彼とここに来たことが、あるのではないですか?」
本因坊は、慌てて首を振った。ウソだ―――――直感的にそう思った。
「彼――――ボクの恋人なんです。」
ボクがそう言ったと同時に、冷水を頭から浴びせられたかのように、老人の身体がぶるぶると
小刻みに震えだした。
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ボクは、今、「ここに進藤と来たことがあるか?」と訊いた。「来ていない」と、いうのが、
ウソだとすると…この老人は少なくとも二回以上進藤と――――――!?
だって、あの時は地方のイベントだったんだ!ここは、東京…。ああ…知りたくなかった。
進藤がこの猿に……!し・か・も 二 回 も !!!ジジイ!こんなカマかけに、
簡単に引っかかるな!
だが、例え老人がしらを切ったとしても、ボクは彼が白状するまで執拗に嬲り続けた
だろう。だから、結果は同じだ……同じなんだけど……ああああぁぁぁ!!!でも、納得
できない!身勝手と言われても、認められるかぁ!
ボクの心は、怒りの臨界点を突き抜けて、逆に酷く冷静なっていた。無理に感情を
抑える必要はない。頭の中は異常な程に冴えていた。
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ボクは、本因坊を冷たく一瞥した。と、ある一点に、視線が止まってしまった。怯えた
表情とは裏腹に、老人のグロテスクなモノは隆々と立ち上がっていた。
相当、強力な薬だったらしい。たった一口でこれか……。全部飲んでいたら、死んでいた
かもしれないな。そのほうが、よかったのに……。 だが、よく考えると、あれは本来ボクが
飲むはずの物だった。若い僕でも、ただですむわけがナイ!徹底的に、虐めてやる!
「はしたないですね。ここをこんなにして…」
ボクは、ベルトで、軽くそこを叩(はた)いた。「うぅ!」老人が小さく呻いた。
続けて、何度も叩く。力を入れずに、ごくごく軽く。老人の口から、熱い息が吐かれた。
「感じているんですか?こんなことをされているのに?」
そう言いながらボクは、思い切り、老人の太股を打った。
パァン!―――――鋭い音が座敷に響いた。
「ひぃ……!」
悲鳴が上がる。痛みで本因坊のモノは、少し萎えてしまった。
ボクは、再び老人をベルトで軽く嬲る。とても優しく、愛撫するように…。そして、
その後は――――――
それを何度も何度も交互に繰り返した。
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最後に強く老人自身を打ち据えた。本因坊は、「ひぃっ!」と大きく息を吸い込むと、
とても老人とは思えぬ勢いで、汚汁をまき散らしながら果てた。
その姿の醜さに目を背けたくなった。涎にまみれた弛緩した口元。どんよりとした瞳。
己の吐き出した液体に汚れる干からびた下半身。そして、浅ましくもまだ、存在を誇示している
本因坊自身。
ボクは、本因坊を冷静に観察しているうちに、自分の誤りに気がついた。ボクは今まで、
老人を同じ趣味の持ち主だと思っていたのだが…もしかして…もしかすると………。
突然、ボクの思考は遮られた。
「うで…腕が痛い…はずしてくれ…」
老人が呻いたのだ。後ろ手に縛られた腕が、身体の重みでよけいに痺れるらしい。
「へえ…辛いと言う割に、ここはずいぶんと元気なようですが…?」
足で、思い切り踏みつける。靴を履いていないのが残念だ。この靴下は捨てて帰るか…。
老人の息が瞬間止まった。だが、目には情欲の色が濃く浮き出ている。
ボクはベルトを放り投げると、本因坊の側から離れた。老人の顔に戸惑いと絶望が浮かんだ。
壁に寄りかかって、老人を眺める。身体を捩らせたり、足をもぞつかせている。時折、
何か言いたそうにボクを見る。その訴えるような視線を冷たく無視した。
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