裏階段 三谷編 28


(28)
シャワーの水温を水に変えた。ビクリと彼の体が跳ね上がって恨めしそうにこちらを
睨み付けて来る。
「寝てると置いて行くぞ」
冷たい水を供に浴びる位置で彼に口付ける。愛情がない事を確かめる温度のないキスだ。

「…自分の碁の明日…」
裏木戸から庭に入り、その頃から習慣となっていた煙草を吹かしながら独り言のように口にして
何だかおかしくなって口元が弛んだ。
その時突然茂みの向こうから水しぶきがあがって叩き付けられるようにシャツを濡らされた。
「きゃあっ、ごめんなさい!」
庭仕事には似つかわしくない真っ白なつばの広い帽子に品の良いワンピースの女性が
勢い良く水の吹き出るホースの扱いに苦慮していた。
「こっちによこしてください」
御丁寧にホースの口を向けられ、ズボンまで濡らすはめになって壊れかかっていた庭の隅の
蛇口に辿り着いた。
「庭に水を巻く時はそこの窓からトイレの手洗い場にホースをつなぐんです。」
うんざりした表情で説明するとその女性は少し反省したように肩をすぼめたが、
水浸しのこちらの格好に我慢出来ず吹き出した。
「本当にごめんなさい。よけいな事はするものじゃないわね。あなたがセイジ君ね。」
後の明子夫人だった。                   [三谷編・終]



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