平安幻想異聞録-異聞- 28
(28)
その日の夕方、佐為はひとつの決意をして近衛の家に赴いた。
(もし、これでヒカルが私に対して嫌悪を抱くようなならば、
もう私はヒカルに会うことをやめねば。ヒカルをこれ以上傷つけないために。
ヒカルとて、自分にそのような劣情を抱くものが近くにいて嬉しいわけがない)
佐為は近衛の家の門を叩いた。
ちょうど夕餉が終わった頃らしく、賄いでは食器を片づける音がする。
ヒカルは、床の上で上半身を起こして、めずらしく詰碁の勉強などしていた。
「どうしたんです?めずらしいですね。ヒカルが碁の勉強なんて」
ヒカルは佐為に笑い返した。佐為は床のそばに静かに腰を下ろす。
「今日、昼間、賀茂のやつが見舞いに来てさー、手持無沙汰だったから
一局打ったんだよ。したら、大負け!くやしくってさー。なぁ、佐為。
今度特訓してくれよ。」
「いいですけど、いつもヒカルは一時もじっとしていられなくて、
外へ行ってしまうじゃないですか」
「今度はちゃんとする!ちゃんとするからさ!……あ、そうそう、
これ、賀茂が」
ヒカルは枕の下から、1枚の護符を取りだした。
「なんか、呪の匂いがするから貼っとけって」
「アキラ殿は、この前もそんな事を言っていましたが…。そうですか。
用心にこしたことはないですからね」
佐為は立ち上がって、ぐるりと部屋を見渡すと、入り口のところの柱に、
その札を礼法にのっとって貼り付けた。
「これでいいでしょう」
貼り終わると佐為は再びヒカルの側にもどった。
すっかり日もくれたのか、明かり取りの窓からは光りの一筋も見えず、
冷たい夜風だけが吹き込んで知る。
「窓をしめましょうか」
佐為が問いかけると、ヒカルは布団に横たわって、まっすぐに佐為を見上げていた。
(あ、来るな)
と、なんとはなしに思った。
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