平安幻想異聞録-異聞-<水恋鳥> 28
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自分の心に巣喰う、醜いどろりとしたものが動くのを佐為は感じた。
ヒカルが、唇が触れそうな程間近に顔を寄せてきて、半分目を閉じたまま囁いた。
「昨日、言いそこねちゃった事だよ。佐為。気なんか使うなよ。もっと無理して
くれてもいいんだ。オレは、お前のものだから。お前はオレをしたいようにして
いいし、オレはお前になら何をされてもいいんだ」
だから、もっと――と。
寂しいなんていうな、と。
佐為は自分の手を流れに沈め、自身の根を戒めているヒカルの手に重ねた。そして、
その指を一本ずつ外させると、かわりに自分の手で握るようにして根元を締め付ける。
ヒカルは岩から背を浮かせ、覚悟を決めたように佐為の首に取りすがり、一言。
「酷くしていいから」
その言葉に対する、佐為の返事は優しいものではなかったのは確かだ。黙ってヒカルの
体を奥まで貫いたのだから。
「くぁ……っんん!」
ヒカルの背が躍るように跳ねて、水しぶきを散らした。達する寸前まで高められて、
本当なら今の容赦のないひと突きで達してしまっていても不思議ではないヒカルの
体だったが、さっきまで自分の手で戒めていた根本を、今は佐為の手が縛っている。
「…はぅっ!…くんっんっ……んっ!」
佐為は、自分の中の暗部が欲するままに何度も突き刺し、突き上げる。
首に回されたヒカルの腕さえ、この熱さだ。その内部にどれほどの熱がこもって
しまっているのか、どれほど感じやすくなっているのか。だが、清流の冷たさに
さえ冷やされない、そのヒカルの体の火照りが、佐為の心を暖めるのだ。いきつけ
ない苦しさが体にこたえているはずなのに、ヒカルが先をねだる。
「まだ、まだ、佐為。もっと強くしてくれなきゃいけない……っ!」
ヒカルの中へ佐為のモノが行き来する時に入り込む川の水さえ、すぐに生温くなる
程の熱だ。
「ヒカル、ヒカル」
名を呼び、声で耳たぶを嬲り、佐為はさらにその体の奥まで侵入し、押し広げた。
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